がんと向き合い生きていく

「コロナで死ぬのは嫌」気になる患者と初めて言葉を交わした

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 この2年間、Gさんはずっと2カ月に1回のペースで通院しています。病院では腫瘍内科の診察室前で順番が来るのを待つのですが、同じように待つ患者がいつも数人います。まったく会わなくなった患者、会わないなと思っていたら再び顔を合わせる患者もいます。

 その中でも、Gさんが気になった人がいました。たぶんGさんと同じ年代で、身長170センチくらい、眉毛が太く、くちびるが厚いブスッとした男性です。時に、そのギョロッとした目とGさんの目が合ってしまうのです。

 同じ腫瘍内科に通っているのですから、がん患者に違いありません。きっと向こうもGさんの顔を覚えていると思いますが、一度も声をかけたことも、かけられたこともありません。「Jさん」と呼ばれて診察室に入っていったので、Jという名前なのでしょう。特に何があってというわけではないのですが、なぜか、このJさんがGさんの心に留まっていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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