がんと向き合い生きていく

「コロナで死ぬのは嫌」気になる患者と初めて言葉を交わした

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 もちろん、そんな外来での出来事は、自宅に帰ればすっかり忘れてしまいます。山と庭、畑を見れば、まったく違う自然の世界に浸れるのです。

■がん患者はハイリスク

 前回、外来に訪れた頃から新型コロナウイルスが流行していて、テレビのニュースではこんな田舎村の近くでも陽性者が数人出たと報じられていました。コロナで亡くなった人の話を聞くと、Gさんは「がん患者は感染のハイリスク、がんで死ぬか、コロナで死ぬか?人間たかだか100年。考えたって仕方ないかも」と思ったり、「死んだら甥っ子にこの家と畑を継がせるか、村にあげてしまうか」などと漠然と考えたりしていました。

 診察の予約日になって、GさんはまたN病院に出かけました。マスクを着けて電車に乗り込むと、乗客は皆マスクをしています。車内では話し声ひとつ聞こえず、次の駅名を告げる車内放送だけが響いていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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