研究33年ウイルス学者が語る新型コロナ

コロナ禍さまざまな出口戦略…完全に逃げ切るか集団免疫か

すべての国が現在も新型コロナウイルスと闘っている(ローマの聖堂で消毒液をまく男性)/
すべての国が現在も新型コロナウイルスと闘っている(ローマの聖堂で消毒液をまく男性)/(C)AP=共同

 新型コロナウイルスに対しては、世界各国でさまざまな方策で立ち向かっている。不幸にして、感染爆発して、医療崩壊が起こってしまったイタリアや、初期にウイルスの流入を防いだ台湾、新型コロナウイルスにはあえて対策をせずにやり過ごすというブラジルなどである。すべての国が新型コロナウイルスに対して現在も闘っており、どの国の対策が最もコロナウイルスによる死者を少なくできるのか、そして、経済に与える影響を低くできるのかは、現時点ではわからない。

 新型コロナウイルス禍から立ち直る戦略(出口戦略)はいくつもある。まずは、新型コロナウイルスから完全に逃げ切る方法である。理論的に言えば、実効再生産数(Rt)を1以下にすれば、感染を終息させることができる。基本再生産数(R0)がおよそ2であることから、単純に接触機会を減らすことで、Rtを1未満にすることは可能である。

 しかし、やっかいなことにこのウイルスは世界的に蔓延しており、その終結は当分先である。たとえ国内で感染が早期に終息したとしても、海外からのウイルス感染者の流入を止めない限り、Rtを1未満にする政策を、新型コロナウイルス感染が世界的に終息するまで、維持し続けなければならない。効果的なワクチンが開発できれば、ワクチンを接種することで逃げ切ることもできよう。しかし、前回述べたようにワクチンの実用化は当分先である。

 別の方法は、集団免疫である。これは、集団中の一定の割合で感染が広がれば、Rtが1未満となり、感染が終息するというものである。再活性化や再感染の可能性、あるいは、不可逆的な肺の損傷の可能性を理由に、集団免疫に懐疑的な意見もあるが、多くの人が回復している事実は、集団免疫による感染の終息も現実的な手段となろう。しかし、その場合も、感染爆発による医療崩壊を防ぐ必要がある。

宮沢孝幸

宮沢孝幸

京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センターウイルス共進化分野准教授。日本獣医学会賞、ヤンソン賞などを受賞。小動物ウイルス病研究会、副会長。

関連記事