研究33年ウイルス学者が語る新型コロナ

出口戦略で都市封鎖は現実的でない…「新自粛」を提唱する

人通りの少ない渋谷のスクランブル交差点
人通りの少ない渋谷のスクランブル交差点(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス対策の最終ゴールへ向けての戦略は主に2つある。「ウイルスからとことん逃げる作戦」と、「集団免疫により乗り切る作戦」である。どちらが良いのか。

 「ウイルスからとことん逃げる作戦」は、実効再生産数(Rt)を1未満に維持することである。閉じた集団内であれば、Rtを1未満にすることによりウイルス感染を終息に導ける。ただ、鎖国するわけにはいかないので、この施策は世界的なウイルスの流行が終わるまで、あるいは効果的なワクチンが開発されるまで続けなければならない。しかし、その見通しは明るくはない。

 「集団免疫によって乗り切る作戦」は、早期に一定以上の人々が感染することにより、集団を免疫獲得状態にすることである。理論的には集団中のおよそ6割が感染すれば、ウイルス感染は終息する。しかし、集団免疫作戦は医療崩壊の危険性がある。医療崩壊を起こしてしまった場合は、ウイルスによる人的被害は甚大となる。この作戦をとる場合は、医療崩壊を起こさないようにRt値を1になるべく近づけなければならない。また、犠牲者を減らすために、重症化率の高い高齢者や基礎疾患をもっている人を隔離することも必要となる。

 都市閉鎖(ロックダウン)で接触機会を減らしRtの値を低くすることは、経済に与える影響を考えると現実的ではない。過去の統計では、失業率と自殺者数は明確に相関があり、1%の失業率の増加は、年間3000人から4000人の自殺者の増加をもたらすとの報告もある。そしてその自殺者増は、経済が復活するまで長期間続くのである。

 政府は早急に出口戦略を国民に明示すべきである。私は、重症化率の高い人を隔離して、明日提示する1/100作戦で、Rt値を1に近づけて、感染が徐々に広がるのを待つ「新自粛」作戦を提唱したい。

宮沢孝幸

宮沢孝幸

京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センターウイルス共進化分野准教授。日本獣医学会賞、ヤンソン賞などを受賞。小動物ウイルス病研究会、副会長。

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