日本人が新型コロナウイルスに強い理由は?ゲノム学者が解説

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 幸いなことに、日々報告されている新型コロナウイルス感染症の患者数は、多少のゆらぎはあるものの、傾向としては減少の一途をたどっている。つい1カ月ほど前までは、このままでは欧米のように感染者・死亡者が増加する可能性もあると騒がれていたが、杞憂に終わりそうだ。

 感染者数に関して、日本はPCR検査数が足りていないのではないかという批判もあるが、欧米各国でも感染者数に対してPCRの検査数は十分とはいえない状況であり、死亡者数を見ても明らかに状況は異なっている。日本と欧米各国では、なにが異なっているのだろうか。

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 はやっている新型コロナウイルスの種類が、日本と欧米で異なることが要因だろうか。新型コロナウイルスに限らず、ウイルスは突然変異を繰り返し、ときには宿主に対してさらに強毒化する場合もある。確かに、感染初期に中国の武漢を中心としてはやった新型コロナウイルスと、現在、欧米を中心にはやっている新型コロナウイルスは突然変異を繰り返しているため遺伝情報が異なる。

 ただし、その違いはわずかなもので、全遺伝情報のおよそ99・95%は同一である。しかも、2020年5月現在、日本ではやっている新型コロナウイルスは、ヨーロッパやアメリカ東海岸を中心にはやっているものとほぼ同じ変異をもったものが大半であると考えられる。

 一方で、新型コロナウイルスに生じた突然変異の中で、ウイルスの病原性に関与する変異については、現在のところ実験的な証明が乏しいため、いまだにその機能は分かっていないことが多い。それでも、ウイルスに生じた突然変異で、ここまでの死亡者数の差を説明することは困難であろう。

■死亡者数が欧米より少ないのは?

 それでは私たちの体質や生活習慣が関係しているのだろうか。その可能性はある。新型コロナウイルス感染症による死亡は肺炎だけではなく、播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる血栓塞栓症で亡くなる患者も多いことが分かってきた。新型コロナウイルスが体の全身を張りめぐる血管の細胞に感染して炎症を引き起こし、それが最終的に微小な血栓を生じて、血管をつまらせたり、出血しやすくさせたりするのだ。

 新型コロナウイルスは細胞に感染するために、アンジオテンシン変換酵素(ACE)2というタンパク質を利用する。このACE2はアンジオテンシンⅡという血圧上昇に関与するペプチド(短いタンパク質)からアミノ酸を1つ取り除き、アンジオテンシン1―7というそれと拮抗するペプチドに変換する機能を持つ。すなわち、新型コロナウイルスが感染するための入り口は血管を構成する細胞にもたくさん存在する。今後はこのような視点から治療法の研究が進むことが考えられる。

 そして私たちの遺伝子に存在するわずかな違いが、新型コロナウイルス感染症の重症化などに関連するのではないかという研究が世界各国で進んでおり、今後関連が明らかになるだろう。また、糖尿病や心臓・呼吸器の基礎疾患がある患者は重症化のリスクが高いことが、中国を中心に世界各地から報告されている。その他、喫煙の習慣や肥満などもリスクファクターとして指摘されている。加えて、マスクをつける習慣や靴を履いたまま家の中を歩かないことなど、さまざまな生活習慣の違いも関連する可能性はある。

 おそらく最も関連することとして、医療体制、政府や専門家委員によるさまざまな対策とそのタイミング、それらを受けて日々生活を送っている、私たち一人一人の生活変容が功を奏していると考えられる。

 コロナウイルスを完全になくすことは、ワクチンの完成をもってしても厳しいかもしれないが、医療体制を崩壊させずに、維持していくことが重要であると考える。そのため、緊急事態宣言が解除されても、気を緩めて元の生活様式に戻るのではなく、感染しにくい、また他の人に感染させにくい生活様式に変えていく必要がある。

(中川草・東海大学医学部講師)

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