今こそ知っておきたい抗ウイルス薬

薬によって排除は難しくても増殖を抑えて病気の発症を防ぐ

写真はイメージ
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 ウイルスは他の病原微生物(細菌やカビなど)と比べてとても小さく、宿主の細胞に侵入して増殖する(自らは増殖できない)ことが特徴です。

 治療は主に薬で行いますが、宿主の免疫力によって、ウイルスが体に入った場合でもウイルスが増殖して症状が表れる前や短期間でやっつけてしまう場合もあります。つまり、薬で治療しなくても治ってしまうケースがあるのです。逆に、一度感染してしまうと体から出ていかない慢性の感染症になるものもあります。

 ウイルスは、増殖する際に必要な遺伝情報として「DNA」か「RNA」のどちらかを用い、そのどちらを利用するかによって、大きく「DNAウイルス」と「RNAウイルス」の2種類に分類されます。

 さらに細かく分類すると7つに分けられます。たとえば、コロナウイルスは「1本鎖プラス鎖RNAウイルス」、HIVウイルスは「1本鎖RNAウイルス(逆転写酵素あり)」……といったように、核酸の種類、本数、形状と増殖機構(逆転写酵素の有無)によって分類されます。

「逆転写酵素」というのは、RNAを宿主のDNAに組み込むための酵素です。RNAウイルスで逆転写酵素を持っているウイルスは、自身の遺伝情報を宿主のDNAに書き込むことで、ウイルスがずっと宿主の細胞に潜伏する慢性感染症になります。エイズの原因であるHIVウイルスがその例として挙げられます。

 これら慢性感染症は、ウイルスを体から排除することが難しいといえます。ただ、最近は薬によってウイルスの遺伝子を取り除くのではなく、「増殖を抑える」ことで病気自体の発症を防ぐことができるようになってきています。そうした薬による治療で、不治の感染症に罹患していても、健常者と同じような日常生活と寿命が保たれるようになってきたのです。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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