独白 愉快な“病人”たち

ホームや階段が怖い…岩義人さん語る「ナルコレプシー」の苦悩

岩義人さん
岩義人さん(提供写真)
岩義人さん(ユーチューバー/24歳)

「ねぇ、芝居しながら寝てるよね? 疲れてるの?」

 2019年の夏、舞台稽古の休憩時間に相手役からそう言われて、「え?」となりました。

 その舞台では主演を務めさせていただき、初めから終わりまで1時間45分間、出ずっぱりの役でした。そこまでの長丁場は初めてだったので、かなりの緊張感を持って臨んでいたんです。当然、集中していましたし、寝てしまった自覚はまったくなくて、眠いという意識もない。なのに、寝ちゃっていたらしいのです。そのとき初めて「自分はおかしいのか?」と疑いを持ちました。

 その後、演出家の方からも事務所に「芝居中に寝ているからちゃんと調べたほうがいい」という電話をいただいて、マネジャーともども衝撃を受け、病院の睡眠内科を受診したという経緯です。幼い頃から居眠りの多い子供でした。授業中、バスの中、お出かけの車の中など、どこでもよく寝ることは自覚していました。でもそれが病気だとは思いませんでしたし、親も「あんたよく寝るね。でも寝る子は育つっていうから」とプラスに捉えていたのです。

 ところが、睡眠内科での問診で「感情的になったとき力が抜けますか?」と聞かれ、ハッとしました。すごく笑ったときなどに急に膝から力が抜けることがあったからです。と同時に思い出したのが、前年(2018年)の夏、舞台で泣き叫んで怒る芝居の後、気絶に近い感じでふわっと倒れたことでした。すぐに立ち上がれたのですが、その後、病院に行ったら「脱力症状」と言われたことも蘇りました。

 実は感情がピークに達したとき、5分以内にガクンと力が抜けるのは、「ナルコレプシー」の特徴的な症状らしいのです。

「ナルコレプシーの疑いがある」と医師に告げられ、まず始まったのが一日の行動を記録することでした。専用の表があり、就寝から起床の時間帯、仕事や食事の時間のほか、「今日は寝つきが良かった」といった体調面の報告を毎日1カ月間書き続けました。

 そしてその後、病院で脳波を調べる検査をしたところ、思いがけない事実が発覚したのです。

 検査は、頭に電極を付けて「30分寝て、2時間起きる」を4~5回繰り返すというものです。正直、「“はい、寝てください”と言われたって、そんなすぐに寝られるわけないでしょう」と思っていました。でも、ベッドに入ったらなんと! 6秒で寝ていたと判明し、自分でもビックリでした。歴代の中でも記録的に早かったようで「間違いなくナルコレプシーです」とのお墨付きをいただきました。

 要は、寝ていてもずっと眠りが浅くて熟睡できない体だそうで、確実に治る治療法はわかっていないとのことでした。できることは生活習慣を規則正しくすることぐらい。でも、オフの日は12時間ぐらい寝ちゃいます。それでやっとスッキリ起きられる感じです。

 ただ一つだけ処方された薬は、10~15時間眠れなくなる覚醒薬でした。どうしても寝てはいけないときにだけ飲んでいます。

■「いつどこで寝てしまうかわからない」

 思い起こせば、小学校4年生のとき、ダンスレッスンで「今、踊りながら寝てただろう」と先生に言われたことがありました。高校の卒業式はずっと居眠りしていたみたいで、まったく記憶がありません。大人になってからも二度寝が激しいし、電車で終点まで乗り過ごしてしまったことも数え切れません。

「今までも芝居しながら寝ている瞬間があったのかな?」と思うと自覚がないだけに怖いですし、相手の気持ちになると申し訳なさでいっぱいになります。今は「こういう病気なので不快なことがあるかもしれませんが……」と前もってお知らせできますけど、それでも「寝ちゃったらどうしよう」という不安は常にあります。

 一番つらいのは「サボっている」とか「夜更かししてるんじゃないの?」と誤解されてしまうことです。もしも病気を理解してもらえない環境だったら本当に苦しいと思います。

 幸い、自分は周囲に恵まれて、病気がわかったことで改めて人の温かみを知ることができました。

 ルームシェアしている友人2人には「大変やったな」と迎え入れてもらいましたし、事務所も「これを個性として受け入れていこう」と、できる限りのフォローをしてくれています。

 ユーチューブを始めたのも、万が一寝てしまっても取り直しや編集ができて、自分のペースで発信できるという理由から、ルームメートが提案してくれたのです。今はそれに全力で取り組んで、機会があれば少しずつ俳優業もやっていけたらな、とは思っています。 病気になって変わったのは、とても「ビビリ」になったことです。いつどこで寝てしまうかわからないので、駅のホームや階段、横断歩道などが怖いのです。対処法もよくわかりません。ナルコレプシーを自覚してからまだ1年ですから、アドバイスがあれば欲しいくらいです。

(聞き手=松永詠美子)

▽岩義人(いわ・よしと)1996年、福岡県生まれ。10歳のときオーディションで入賞して芸能界入り。舞台を中心に活躍し、サンリオピューロランドのミュージカル「ちっちゃな英雄」での主演をはじめ、「テニスの王子様」2ndシーズン、「青春鉄道2」など話題作に多数出演。CM、映画、声優、朗読劇など活動の幅を広げていた。2019年の難病発覚を経て舞台やテレビでの俳優業を一時休業し、仲間と3人ユニット「Calendar(カレンダー)」を組んでユーチューバーとしての活動をスタートさせた。アクションや短編コメディーなどの動画を配信中。〈https://www.youtube.com/channel/UC2xBe4Ni0p8_rVySjQqmN5g〉

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