病気を近づけない体のメンテナンス

口腔<下>病気につながる口の老化を防ぐ食べ物と唾液の出し方

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 加齢とともに口の機能が低下していく状態を「オーラルフレイル(口の虚弱)」という。しかし、ゆっくり進行するので、自分ではなかなか気づきにくい。次のような「ささいな口の不調」があったら、口の危険な老化のサインと思った方がいい。

▼口が乾きやすい▼飲み込みにくい▼むせる、食べこぼす▼滑舌が悪くなった▼やわらかい物を好んで食べる▼食欲がない、少ししか食べない。

 オーラルフレイルになると、「誤嚥性肺炎」「認知症」「糖尿病」「感染性心膜炎」「引きこもり、うつ」などの病気になりやすいことがわかっている。また、食事が楽しくなくなるので、食欲が低下する。そうなると次第に低栄養となり、最終的に全身の機能が低下する「フレイル(虚弱)」につながるとされている。

 オーラルフレイル対策としては、高齢者向けには舌や口を動かす「健口体操」などの指導が行われている。しかし、前に挙げたオーラルフレイルの「ささいな口の不調」のサインは、50代ごろから顕著に表れてくる。日常で、どんなことに注意しておくべきなのか。東京都健康長寿医療センター・歯科口腔外科の平野浩彦部長が言う。

「虫歯や歯周病などでうまく噛めない状態が続くと、やわらかい物ばかり食べるようになります。すると噛む機能が低下し、ますまず噛めなくなってしまうのです。この負のスパイラルに陥っているのが、オーラルフレイルです。それを断ち切るためには、悪い歯を治し、義歯を付けて、常によくしゃべれる、よく食べられる状態にしておくことが大切です」

 やわらかい物ばかり食べる人は、舌を動かすことも少なくなり、噛む回数が少なくなれば唾液も出にくくなり、舌での食べ物の塊の送り込みも悪くなって、飲み込みも悪くなってしまう。口の機能を高めるには、適度な硬さのあるものを日常的に食べることが大切。食べること自体が口のトレーニングになるのだ。

 では、どんな食べ物が勧められるのか。噛む力の高い(噛みごたえのある)食べ物は、肉類なら「豚ヒレソテー」、魚類なら「みりん干し」、野菜なら「たくあん」や「にんじん」などだ。

 普通の硬さの食べ物は、「イカ刺し身」「タコ」「キャベツ」「大根」「白菜の漬物」「なす」「きゅうり」など。やわらかい食べ物は、「ソーセージ」「ハンバーグ」「マグロ刺し身」「卵焼き」「トマト」「タマネギ」「うどん」「そば」「こんにゃく」「じゃがいも」などだ。

「1食1品は、噛みごたえのある食べ物をメニューに取り入れてもらいたいと思います。簡単に言えば『カリッ』『コリッ』と、噛んだときに音がする食べ物です。また、朝と夜の1日2回、ガムを5分程度噛むのもいいでしょう。虫歯になりにくい、義歯に付かないタイプのガムが売られています。1カ所で噛まず、左右両側を均等に使って噛んでください」

 もうひとつ食事指導がある。噛めない人は栄養バランスが悪くなりやすい。1日トータルで10種類の食材を食べるようにする。具体的には「魚類」「肉類」「油を使う料理」「乳製品」「緑黄色野菜」「海藻類」「芋類」「卵料理」「大豆類」「果物」だ。1食材を1点として、1日7点以上目指すといいという。

 それと年を取って食事の際に気になるのが、唾液の分泌量の低下だ。口が乾いていると、噛み潰した食べ物が飲み込みにくく、むせやすい。唾液量は加齢で減少するが、持病の薬の副作用でも起こる。抗高血圧薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン作用薬、抗うつ薬、抗不安薬、利尿薬、鎮痛薬、気管支拡張薬など、薬の種類によって唾液の分泌を減少させる場合があるので、気になる人は主治医に相談しよう。

「唾液腺マッサージという唾液の分泌を促す方法もありますが、効果は一過性でしかありません。また、唾液は十分分泌しているのに、乾いていると感じる人も多くいます。口の乾きは『口腔機能低下症』の検査のひとつに入っているので、気になる人は検査を受けて確認するといいでしょう」

 口腔機能低下症とは、2018年に歯科分野で認定された新しい病名。口腔機能低下症の検査は、「舌の表面の汚れ」「舌の先の水分量」「噛む力」「滑舌」「舌の力」「食物を噛み砕く能力」「飲み込む機能」の7項目あり、実際に口の機能がどの程度衰えているか調べることができる。検査は保険適用で、時間はトータル20~30分ほどだという。

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