死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

見直しが4年遅れて「患者の選別」を招いた診療報酬制度

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

「4年のブランクの間に希望するような最期を迎えられなかった人もいるのです。国会議員は高い集票力を保持する医師会を恐れて顔色をうかがっているので、厚生労働省も何かと気兼ねしてしまう。そのため診療所の経営に影響するような制度変更に手をつけづらい構図が生まれているのだと思います」

 改革の遅れは、医療側による「患者の選別」まで招いてしまっていたという。

「16年の診療報酬改定で、よりきめ細かな診療が評価されるようになりましたが、かつては重症度によって報酬が違うということもなかったので、患者を選んで利潤を追求するような傾向も見受けられましたね。往診の際は、手がかかる重症患者の家を回るよりも、軽症な患者だったり、一度の訪問で複数の患者を診ることができる団地や施設を回ったりする方が効率がいいと考えられていたのです」

 日本では国民皆保険制度と、保険証一枚で自由に医者を選べるフリーアクセスによって、国民全員がいつでも同質の医療を受けることができるようになっている。こうした独自の医療保険制度が、世界有数の長寿国を実現したのは間違いない。

 その大枠を守りながら、超高齢化社会の中で、いかにして患者に寄り添う「死なせる医療」を充実させるか。医者が稼ぐための医療ではなく、患者のための医療を優先できるのか。突きつけられた課題は重い。

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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