体内の新型コロナウイルスが死滅し、いつ退院できるのだろうか――。
感染した渡辺一誠さん(40=コンサルタント会社社長)は、都内の病院に入院した初日から、早く完治して退院の日が来ることを願った。
4月6日早朝、看護師から、明るい声で「退院のために検査いたしますよ」と朗報が告げられた。
前日もPCR検査を受けた。鼻にグイと棒を入れられる検査が苦手な渡辺さんは、看護師のOKをもらって「痰」の生体提供をした。
続いて、2日続きで2度目のPCR検査が行われた。発症から16日目、入院してから10日が経過し、陰性なら待望の退院だ。
結果が待ち遠しい。しかし、病室に入ってきた看護師の顔はやや曇りがちだった。
「渡辺さん、2日間とも『陽性』でした。まだコロナウイルスがしっかりと残っています」
退院はくじかれ、入院治療を引き延ばしにされた。この朝、洗面用具の整理など退院の準備をしていたのに、振り出しに戻ってしまった。朝夕の体温は平熱になり、あれほど苦しんだ長時間の空咳もない。3度の食事をしっかり食べているし、十分な睡眠もとれている。
「退院の延長と聞いて少しがっかり。でも、延期をプラス思考にとらえました。健康状態に戻り、退院して自宅で療養したら、おそらく外出するかもしれません。それならやはり病院の管理下に置かれた方がいいのではと思いました」
風邪やインフルエンザは、解熱剤などの治療で3日か長くて1週間でほぼ完治する。一方、この新型コロナウイルスは、増幅しながら感染して20日過ぎてもしつこく体内にすみ、薬も寄せ付けない。最悪、重症化したら心肺停止のカウントダウンに入る。
「強敵なウイルス」とあらためて恐怖を感じる一方で、渡辺さんは退院の際、支払う入院費用について看護師に尋ねてみた。
「入院費は公費で賄いますが、検査費用は自己負担になります」
翌日の7日、病室で、安倍首相が発令した「緊急事態宣言」を知った。不要不急以外は外出することなくステイホームしなさいという要請、あるいは指示である。
でも……と、感染して生き地獄の苦しみを体験した渡辺さんは言う。
「政府の対策は甘いのではないでしょうか。今、この新型コロナウイルスの感染を断ち切り、国民の生命を守るためには『外出を禁止する』と声明を出すべきです」
当時も今も渡辺さんはそう思っているという。=つづく