Dr.中川 がんサバイバーの知恵

検診で注意 病院が胃カメラからバリウムに変更を促す理由

内視鏡では難治性のスキルスを見つけにくい
内視鏡では難治性のスキルスを見つけにくい(C)PIXTA

 春の健診シーズンですが、読者の皆さんは健診をきちんと受けられたでしょうか。5月2日付の当欄では、新型コロナウイルスの余波で、各種健診の延期が相次いでいることに触れました。緊急事態宣言が解除され、健診も少しずつ再開されていますが、例年とは違う部分もあります。

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 そのひとつが、胃カメラ検査です。医療機関によっては、胃の検査で胃カメラを予約した人にバリウムへの変更を促しているところもあると聞きます。そういうところでは問診票や尿検査、検便検査などのキットを事前に郵送する際、感染リスクを説明するチラシも同封し、利用者への感染リスクに触れています。

 それを読んだ人は、新型コロナ感染を心配するでしょう。しかし、本当の狙いは、病院側は医療スタッフを守ろうという意図があるようにも思います。

■患者は内視鏡の消毒も確認を

 胃カメラは、鼻や口から内視鏡を挿入して、食道や胃、十二指腸などの状態をチェックします。検査器具を挿入する動きは、鼻の奥の拭い液を採取するPCR検査の動きに近く、患者がせき込んだりすると、飛沫感染のリスクがあります。

 そんな事情から、胃カメラからバリウムへの変更を勧めている可能性があります。医師は、しっかり感染対策をしているので、検査を通じて患者が感染するリスクが高いとは思えません。胃カメラによる感染を恐れる必要は、あまりないでしょう。

 バリウムに変更して検査を受けるか、変更せず胃カメラで検査を受けるか。それぞれの判断でよいと思います。毎年、胃カメラで検査を受けている人も、この機会にバリウム検査を受けるのは悪くありません。

 胃がんの中でも難治性といわれるスキルス性胃がんは、胃カメラでは発見しにくく、バリウムの方が見つけやすい。胃がんの検査では、胃カメラの有効性が知られていますが、ことスキルス性に限っては、バリウムの方がいい。この先も何年かに1回は、胃カメラの人もバリウムを受けるとよいでしょう。

 胃カメラについては、もうひとつあります。胃カメラの器具そのものを介した感染です。実はこれ、新型コロナとは別の話で、かつては器具を介してピロリ菌やB型肝炎ウイルスなどの感染が問題になりました。

 もちろん、過去の教訓から今では器具の洗浄や消毒がしっかりなされていて、そういう細菌やウイルスの感染リスクはほとんどありません。当たり前のことをしっかりやっているだけですが、HPなどで消毒の徹底をアピールしている施設もあります。胃カメラ検査での感染が心配な方は、ガイドラインに沿った器具の消毒を徹底しているか確認するとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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