がんと向き合い生きていく

患者の多くは「腫瘍マーカー」の値に一喜一憂してしまう

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Kさん(76歳・男性)は5年前、健診で前立腺がんの腫瘍マーカーPSA値(正常値4ng/ml以下)が「4・3」で異常を指摘されました。

 某病院の泌尿器科を受診し生検で前立腺がんが見つかりましたが、それでも低リスクと診断され無治療で経過を見ることになりました。PSA値を泌尿器科で定期的にチェックし、もし上昇した時はMRI検査や再生検などを行って根治治療をするかどうかを検討する、いわゆる「PSA監視療法」になったのです。

 あれから5年経ち、先日の定期検査では4・6と前回より0・3上昇したことで、Kさんは心配して私に電話をかけてきました。

 実はPSA値の正常値は年齢の影響も受け、80歳以上では7・0までが正常値とする説があります。そこで、Kさんに「もしかして年齢が関係したのかもしれない」と伝えました。

 Kさんは3カ月後にPSA値を測り、高ければMRIなどの検査をすることになったそうです。 今年の国立がん研究センターの報告によると、前立腺がんの10年生存率は97・8%と、がんの中では最も高いこともKさんに話しました。ただ、患者としては、マーカー値が高くなるとどうしても心配になる……それもよく理解できます。

 Rさん(54歳・男性)は、3年前に某がん専門病院で前立腺がんの手術を受けました。私のところには高血圧と高脂血症もあって通院されています。Rさんは、「某がん専門病院で、手術直後の採血検査はPSA値が0・03に下がったのが、1年後の定期の検査では0・05、今回は0・06だった」と、とても心配そうに話されました。正常値範囲内であるうえにほんのわずかな数値の動きなのですが、再発の心配をされています。やはり患者は不安なのです。

 その後、Rさんは「MRI検査では問題なく、ホッとした」と報告してくれました。

 Fさん(53歳・男性)は、先日ある病院で人間ドック検査を受け、「PSA値が4・2で少し高い」と指摘され、相談に来られました。ほかにも高血圧と高脂血症、さらに糖尿病の疑いもあり、これらも「要受診」と記載されていました。実はPSA値以外のこれらは、健診で数年前から指摘されていました。Fさんはそれでも病院には行かず、放置していたのです。今回はPSA値が高いと言われ、がんが心配で初めて病院を受診されたのでした。

 数値を見てみると、血圧が「収縮期170(㎜Hg)/拡張期100」、糖尿病指標のHbA1c値(正常6・2%まで)は「7・6」といずれも高く、このままではがん以外でも命に関わる可能性もありました。

 もちろん、腫瘍マーカーが高ければがんを疑って病院を受診しなければならないのですが、生活習慣病に関わる数値もとても重要です。ただ、がんの存在を示唆する腫瘍マーカーと、高血圧、コレステロール値、糖尿病指標のHbA1c値とでは、Fさんが受けた印象がまったく違っていたのだろうと思います。

 このことからも、「がん=死」というイメージはとても強いものなのだとあらためて思わされました。

■がんができると血液中の特定の物質が増える

 体のどこかにがんができると、血液の中にタンパク質などの特定の物質が増えることがあります。

 このような場合、採血検査でがんの診断や治療の指標になる物質を測定でき、その物質は「腫瘍マーカー」と呼ばれます。前立腺がんでは、PSA値が高くなることが多いのです。

 腫瘍マーカーで高い値が示された時は、「何かのがんがありそうだ」と考え、さらに検査を進めます。多くの場合、早期がんでは上昇しませんが(前立腺がんでは早期でも上昇)、腫瘍マーカーはあくまでも指標であって、がんそのものの存在は画像診断や生検組織ではっきりさせるのです。「腫瘍マーカーの値は少し高いのに、がんがない」という場合もあります。私の経験では、胃がんの手術後、「Ca19―9」という腫瘍マーカー値(正常37Ug/mlまで。膵臓がんや大腸がんなどで高くなる)が1・5倍くらい高かった方がいらっしゃいました。また、CEA値(正常5ng/mlまで。消化器がんなどで上がる)では、喫煙者で10を超える場合もありました。

 腫瘍マーカーで異常値が出た場合はさらなる検査を受け、多くの患者はどうしてもその値を心配しながら一喜一憂して過ごすのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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