病気を近づけない体のメンテナンス

筋肉<上>「何歳からでも筋肉量10~20%増は可能です」

上半身より下半身の強化が大切(写真はイメージ)
上半身より下半身の強化が大切(写真はイメージ)

 中年以降になると若い頃と比べて、「疲れがたまるようになった」「仕事で無理が利かなくなった」「徹夜ができなくなった」といった自覚症状を実感する人は多い。「年(老化)だから仕方ない」と言ってしまえばそれまでだが、同年代でも、ものすごく老け込んだ人もいれば、びっくりするほど若々しい人もいる。その差は何なのか。

 筑波大学・人間総合科学学術院の久野譜也教授が言う。

「人の老化度や健康度に差をつけている一番のカギは『筋肉』です。年を取れば誰でも、白髪が増えたり、老眼になったり、耳が遠くなったりと、衰えを感じるようになります。しかし、体の器官の中で筋肉は別です。中高年になって体力に陰りが見えてきたとしても、きちんと筋肉をつける運動をしていれば、その体力の衰えにストップをかけたり、逆に今より体力をアップさせたりすることが可能なのです」

 人間の筋肉は意識して鍛えていなければ、30代をピークとして以後、加齢とともにおよそ年1%の割合で減っていくという。10年で10%減だから、30代と比べて40代は10%減、50代は20%減、60代は30%減、70代は40%減となる。

 体の筋肉量を「車の排気量」に例えると分かりやすい。30代までを3000㏄の排気量の車とし、50代、60代になって排気量が1000㏄に落ちたとする。かつて3000㏄時代にやっていた活動量を、今の1000㏄で同じくやっていれば、疲れてしまうのは当然。

「疲れが取れない」「無理が利かない」といった自覚症状は、「自分」という車を動かす排気量(筋肉量)が低下してきたことが原因なのだ。

「さすがに70代になってから30代の筋肉量に戻すのは無理ですが、何歳からでも筋肉量を10~20%程度増やすのは十分可能です。私は20年以上、全国各地で『シニア世代に筋トレで健康になってもらうためのプロジェクト』に取り組んでいます。その簡単な筋トレとウオーキングを組み合わせたメニューを行ってもらうと、参加者の多数の方は体力年齢が10歳や15歳若返ります。中には70代の方が50代の体力年齢に若返ったケースもあります」

■目標歩数は1週間で5.6万歩

 筋肉量が増え、体力年齢が若返ると「体が軽くなった」「体を動かすのが楽になった」という効果が出る。こういう状態をずっと続けていれば、先々「寝たきり」や「要介護」にならずに済むことにつながるという。

 たとえ40代、50代でも油断してはいけない。一日中パソコンにかじりついて「ろくに体を動かさない生活」を続けていると、定年を迎える頃には「サルコペニア肥満」になる可能性があるからだ。

「サルコペニア」とは、筋肉量が減少してしまう状態のこと。高齢者の場合、筋力低下から転倒骨折して、それが寝たきりの原因になる。

 サルコペニア肥満は、「サルコペニアの転倒骨折リスク」と「メタボ系疾患のリスク」が合体した状態。筋肉が減った分、脂肪が増えているので、一見健康そうで見た目では分からないのだ。

 判断基準は、①筋肉量の割合が、男性で27・3%未満、女性で22%未満②BMI[体格指数=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)]が25以上。

 筋肉量の割合は市販の体組成計で測れるので、この体の中身のバランスに注意を払って、筋肉量を落とさない運動習慣が大切になるという。

 では、体力年齢を若返らせるには、どんな運動をするべきなのか。重要な点は、次の3カ条の鉄則だ。

〈1条〉「筋トレ(無酸素運動)」と「有酸素運動」の両方を行う。

〈2条〉上半身よりも下半身を中心に鍛える。

〈3条〉運動を一生にわたって継続していく。  

〈1条〉の有酸素運動については、ウオーキングを行うことを前提にしている。それは継続していくには、最もハードルが低いからだ。

「ウオーキングの効果を出すために必要な量は『歩数』によって決められています。それは、さまざまなエビデンスにより『1日8000~1万歩』です。こんなに毎日、歩かないといけないと思うと気が重くなるかもしれませんが、心配いりません。歩くことに関しては『歩きだめ』ができるというのが、今の科学です。歩けない日があっても、1週間単位で帳尻を合わせていけばそれでOKです」

 そうすると、1週間の歩数はトータルで「5万6000~7万歩」が目標。これは通勤や仕事での移動などで歩く分も含めた合算でかまわないので、歩数計で毎日記録を付けるといいという。

 次回は体力年齢を若返らせる「5つの筋トレ」を紹介してもらう。

関連記事