上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

外出を控えて運動不足になると心臓にとって大きなマイナス

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 とりわけ高齢者の場合、運動量の低下は「サルコペニア」のリスクをアップさせます。「加齢性体力低下症」とも呼ばれ、加齢と運動機能の低下によって骨格筋量が減少して筋力が低下し、身体機能が衰えてしまう病態です。

 外出自粛期間中、会社員の1日の平均歩数は9000歩から約2700歩まで激減していました。高齢者は新型コロナウイルス感染症でハイリスクと言われ、ほとんど外に出ない人も多かったでしょうから、もっと歩数が減っているかもしれません。1日の歩数が6000~7000歩未満の人は、8000~9000歩以上の人よりもサルコペニアになるリスクが2~3倍高くなり、女性で4000歩未満の生活を5年継続して75歳を越えると、80%以上の方がサルコペニア予備群になっているというデータがあります。運動量の低下はサルコペニアにつながるのです。

 サルコペニアは心臓にも悪影響を与えます。サルコペニアの度合いが高い心不全患者は、再入院や死亡率が高くなるという報告がありますし、中等度の心臓弁膜症が重症化してしまうケースもあります。心臓も筋肉だから、筋肉量が減少するサルコペニアによって衰える……というわけではありません。心臓が送り出す血液の“受け皿”である全身の筋肉量が減少してしまうと、心臓疾患そのものの状態は変わっていなくても、表れる症状は悪化してしまうのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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