「訪問診療の際は自分の軽自動車を運転して地域を回っています。運転ができなくなれば看護師に代わってもらうこともできるし、勤務先を自宅近くの診療所に変えることも可能でしょう。いかにして働き続けるか、選択肢はいろいろありますよ」
現在、医療の現場では新型コロナウイルス感染症という新しい病も広がっている。
「身近なところにも最前線で戦っている医療者がいます。私だって、いくら予防していたとしても、いつ感染するか分からない。まあコロナは8割が軽症と言われますが、そうなった時は、そうなった時ですね」
無駄に死を恐れない。そんな死生観も読み取れる。「生かす医療」と「死なせる医療」という正反対に見える2つの医療のはざまで最適解を求め続けてきた小堀さんだからこそ、冷静に見つめることができるのだろう。
「その人らしく死ねるように支援するのは簡単ではありません。訪問診療医は、汚物にまみれたり、行政と戦ったり、神父のように死について語ったりすることもあります。高齢化が進み多死社会に突入すれば、現場で人手が足りなくなって“負け戦”を強いられるかもしれません。それでも私は生きている限り、訪問診療を続けていくつもりです」
小堀さんの訪問診療の記録は、ドキュメンタリー映画「人生をしまう時間」(NHKエンタープライズ)でも描かれている。=おわり
(取材・文=稲川美穂子)
死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期