第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<7>突然変異による重症化の可能性

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回述べたように、極めてまれではあるが、新型コロナウイルスは突然変異によって、より人に感染・増殖しやすいものに変化する可能性はある。では、そのような変異ウイルスはすぐに人の集団に広がるのだろうか。答えはノーである。たとえ感染や増殖に有利な変異を獲得したウイルスだとしても、初めは一つから増殖していくため、それが感染者の中で多数を占めるようになれるか、また、多数を占めたとしても、別な人に感染できるのかは、偶然による作用が大きいと考えられる。同時に、感染や増殖に有利ではない、むしろ不利になるような変異を獲得したウイルスも、偶然の作用で人の集団に広がっていく可能性も十分ある。実は現在広がっている新型コロナウイルスの突然変異については、機能がほとんど変化しない、もしくは感染能や増殖能が低下しているものも多いだろう。

 それでは現在はやっている新型コロナウイルスの中には、危険な突然変異を起こしたものはないのか。少なくとも2つは注意が必要だと考える。1つはコロナウイルスの表面にある突起状のスパイク(S)タンパク質の614番目のアスパラギン酸というアミノ酸が、グリシンという別の種類のアミノ酸へと変化する突然変異である。これは現在ヨーロッパを中心に、日本を含めて世界各地で広がっていて、むしろ現在では主流となった変異ウイルスである。614番目のアミノ酸変異がSタンパク質の安定に寄与し、ウイルスが感染しやすくなっているのではないかと報告された。一方で、この変異ウイルスの病原性などは変化していないようだ。もう1つは、ORF(オープンリーディングフレーム)3bタンパク質について、長さが伸長する変異についても、感染すると重症化する可能性が示唆された。この変異は現在のところ、エクアドルの一部で確認されたのみである。ただし、以上2つの突然変異の影響については、それぞれの研究論文が査読前で、また、生体内での影響などは未知であるため、変異の影響の詳細については今後更なる研究が待たれる。

 一方、新型コロナウイルスのORF8タンパク質に生じた変異が、S型、L型と呼ばれ、病原性の違いに関与するのではないかと一時期、広く報じられた。しかし、最近の研究結果では、この2つの変異については、感染者の病状や予後に顕著な差が見られないと報告され、機能変化の詳細については別途検証が必要であるものの、病原性への関与はほぼ否定されている。

 新型コロナウイルスが今後も変異し続けることは間違いない。しかし、新型コロナウイルスに突然変異が生じるのは自然なことであり、多くの変異は病原性などに関与しないので、慌てる必要は全くない。

(中川草・東海大学医学部分子生命科学講師)

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