Dr.中川 がんサバイバーの知恵

石原慎太郎氏が告白 膵臓がん早期発見と治療選択ポイント

石原慎太郎元東京都知事
石原慎太郎元東京都知事(C)日刊ゲンダイ

「肝臓癌で苦しみ抜いて死んだ弟の裕次郎を思い起こさぬわけにはいかなかった(原文ママ)」

 月刊誌「文芸春秋」7月号で亡き弟に重ねて、今年1月に膵臓がんが見つかったことを告白したのは、元東京都知事の石原慎太郎さん(87)です。

 全国がんセンター協議会の最新データで、膵臓がんの5年生存率は、すべてのステージを含めた全体で9・9%。がんの中でも厄介ながんの闘病生活を「私の人生を彩ってくれた」と表現するのは、石原さんならではでしょう。

 しかし、診断のキッカケや闘病生活を知ると、一般の方も応用できるヒントがあります。それを紹介しましょう。

 石原さんは前立腺の治療でかかりつけ医がいるそうです。転機となった今年1月、その医師に夜間頻尿を相談すると、医師はエコーで腎臓を検査したといいます。その画像を診て膵臓の近くの影を指摘。それを受けて石原さんが別の病院で膵臓の検査をしたところ、早期の膵臓がんが見つかっています。

 膵臓がんが難治がんなのは、早期で見つかりにくいためです。治癒が期待できるステージ1での発見率はわずか1割ですが、“一がん息災”というか、東大病院の調査では、肝臓がんの治療で見つかる膵臓がんは6割がステージ1でした。

 肝臓がんの再発チェックで、CT検査を頻回に行うため、早期の膵臓がんが見つかりやすいのです。

 私が早期の膀胱がんを見つけたのも、自分で脂肪肝をチェックするためのエコー検査でした。石原さんも一病息災、膵臓がんの大きさが2センチのステージ1で早期発見できています。

 メタボが増える今、脂肪肝の人は珍しくありません。脂肪肝だと、保険でエコーやCT、MRIを受けられます。そのときに「膵臓もしっかりチェックしてください」とお願いすること。それが、早期発見のための重要なポイントです。

 もう一つは、治療法の選択で、放射線の一つ陽子線を選んでいます。ステージ1は切除が可能で、通常は手術が第一選択ですが、手術の問題点が取り残し。局所に再発したり、転移したりしやすく、5年生存率が5割に満たないのは、そのためです。

 そこで、陽子線が注目されています。従来のX線では、そもそも膵臓の腫瘍への効果が薄いばかりか、周辺の正常組織への影響が大きかったのですが、陽子線はその弱点をクリア。

 膵臓の腫瘍にピンポイントに効果的な照射ができ、なおかつ正常組織への影響を少なくすることが可能になっています。つまり、手術の取り残しの問題を克服できる可能性があるのです。

 海外では、さらにMRIと一体化した強度変調放射線治療(IMRT)ができるようになっています。呼吸などに伴う微妙な膵臓の動きを、MRIをもとにリアルタイムに追尾しながら、放射線を照射することで、より精度がアップ。海外では、膵臓がんへの効果的なデータが報告されています。放射線治療は新時代に突入し、膵臓がんが難治がんでなくなる日も近いかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事