スマートリングは新型コロナ感染拡大防止に役立つのか

いつまでも「マスク」と「手洗い」だけとは…
いつまでも「マスク」と「手洗い」だけとは…(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症は発症2日前から強い感染力を持つという。これを予防するには“感染者をいかに早く見つけ出し隔離するか”が重要だが、それは極めて難しい。そんな中、症状が出る3日以上前に感染を教えてくれるスマートリングが開発されているという。どんなものなのか?

 開発しているのは、米国のスマートリングメーカーとカリフォルニア大学サンフランシスコ校やウェストバージニア大学ロックフェラー神経科学研究所などの研究機関。スマートリングの計測値をAI(人工知能)が分析することで新型コロナウイルス感染症の症状が表れる3日前に90%以上の精度で教えてくれるという。長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授の永田宏氏が言う。

「話題になっているのはOura社が開発したリング(指輪)型のウエアラブルデバイス。心拍数、呼吸数、体温、活動量、睡眠などを継続的に計測し、そのデータをスマホ経由でクラウドサーバーに保存。それを解析して新型コロナウイルス感染症の発症をAIで予測しようというわけです」

 新型コロナウイルス感染症については、さまざまなことがわかってきた。そのひとつが、感染者が感染力を持つのは症状が出る2日前から症状が表れて1週間までだということだ。

「中国の研究から、感染者には無症状の人や軽症者が8割いて、その人たちが感染拡大に一役買っていることがわかっています。日本でもクラスター対策班により、クラスターの原因である1次感染者の41%はクラスター発生時には無症状、もしくは発症前であったことが報告されています。つまり、感染拡大を予防するには症状がない感染者をどのようにしてあぶり出し隔離するかにかかっており、指輪型のウエアラブルデバイスはその手段のひとつとして注目されているというわけです」(永田氏)

 では、どのようにして無症状の新型コロナウイルス感染者を見いだすのか?

 新型コロナウイルスに感染すると知らぬ間に肺の機能が落ちて、酸素濃度が低下。呼吸数が増え、発熱することなどが知られている。こうした新型コロナウイルス感染症の特徴を捉え、症状の出る前に感染の可能性を探るのだという。

 そもそもウエアラブルデバイスの機能を使って新型コロナ肺炎の発症を予測する研究は米国を中心に世界中で行われている。先行しているのはApple Watch、Fitbit、Garminなどだ。

アップルウオッチとFitbitのフィットネストラッカー
アップルウオッチとFitbitのフィットネストラッカー(C)ロイター
ウエアラブルデバイスは医療の中心へ

 こうした中、一歩リードしているのが指輪型のデバイス(Oura Ring)だ。研究のため、医療関係者以外にも北米男子プロバスケットボールリーグ(NBA)で採用される方向で話が進んでいるという。

「時計型に比べて身軽だからでしょう。ただ、現状では、Oura社のスマートリングは医療機器ではありません。また開発初期段階であり、根拠となるデータの開示が乏しいため、疑問視する医療関係者も少なくありません。あくまでも現時点では“予測結果を参考に、ユーザーがPCR検査などを適切に受けるのを促すことが狙い”としています。Oura社は、ユーザーを増やしながら、精度を上げていく戦略を取っているようです」(永田氏)

 こう言うと“なんだ、やっぱりウエアラブルデバイスなんておもちゃの類い、単なる話題か”と考えがちだが必ずしもそうではない。ウエアラブルデバイスは米国ではすでに一部医療機器として認められており、指輪型は時計型よりも優れている面が多いという。医療技術に明るい埼玉医科大学総合医療センター客員教授で医師の奥真也氏が言う。

「FDA(米国食品医薬品局)は、Apple Watchの心電図など一部のウエアラブルデバイスを医療機器として認めています。Oura社のスマートリングはいまは医療機器として認められていませんが、時計型に比べて指輪型の方が皮膚へ密着していてモニターしやすいことから、ウエアラブルデバイスの進化系と言えます。いずれ医療機器として認められる可能性が高い。咳などの情報はスマホなどで自身で打ち込まなければなりませんが、計測データと本人の状態など幅広い情報で新型コロナウイルス感染症の発症を判断できる設計になっているようです」

 現時点では研究用だが近い将来実用化される可能性が高い。

「このデバイスが注目されるもうひとつの理由は、同じスマートリング同士が長時間近くにいた場合、アラートを出すよう作られていることです。NBAが採用に積極的なのはそのためでもあると思います」(奥氏)

 地球温暖化による激しい環境変化で未知なる感染症の登場が予想される中、いつまでも感染症対策が「マスク」と「手洗い」だけというわけにはいかないのだ。

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