死を身近に感じたことで…訪問診療医が実感した「新型コロナ」の教訓<下>

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

 小堀さんが人々の変化を感じるようになったのは、4月上旬からだという。

「発熱時に対する不安を口にする人が増えました。それで私は、PCR検査の基準や指定医療機関のことに始まり、救急車を要請しても迅速な受診が見込み薄であること、陽性ならば面会が制限されること、陰性で全身状態が安定していれば自宅療養の可能性が高いことなどを説明するようになったのです」

 その結果、治療計画を変更する人もいた。老老介護する妻の負担を考え、緩和ケア病棟への入院を検討していた末期がんの男性患者(89)のケースである。

「夫はほぼ寝たきりで、妻は認知力が低下していました。妻主導の介護は厳しい状況でコロナの流行前から入院を考えていたのですが、予定していた病棟はコロナ対応で面会制限を設けました。そのため、入院が今生の別れとなる可能性が生まれたのです」

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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