体温を下げない冷感グッズは熱中症リスクをむしろ上げる

暑い夏には扇子やうちわは欠かせないが…
暑い夏には扇子やうちわは欠かせないが…(C)日刊ゲンダイ

 熱中症の季節が到来し、あちこちで「冷感グッズ」が目立つようになってきた。身に着けたり接触するとひんやりする衣服や寝具、塗布したり貼り付けたりスプレーすると冷却感がある商品など、熱中症対策グッズとして大々的に取り上げられている。だが、そうした冷感グッズの中には逆効果になってしまうものがあるというから注意したい。

 われわれが「冷たい」「温かい」と感じるのは、皮膚の近くまで広がっている温度を感じる末梢感覚神経に存在する冷受容体や温受容体が外部の温度刺激に反応し、情報が脊髄や脳へ伝達されることで知覚する仕組みになっている。生命を維持していくためには外部環境の変化に細かく対応する必要があり、体が温まれば汗をかいて体内の熱を放散し、冷えれば逆に汗腺を収縮させて熱が逃げないようにする。

 そんな重要な役割を担う“温感センサー”が、冷感グッズによって誤作動を起こし、逆に熱中症を引き起こす原因になる可能性があるという。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏は言う。

「冷感グッズの中には、汗を素早く吸収して蒸発を促し、熱を放出させやすくして実際に体温を下げる効果がある衣服や寝具もあります。問題なのは『冷えた』と錯覚させるグッズです」

■メントールによる「錯覚」危ない

 たとえば、ハッカ油などのミントが使われている商品は、含まれる「メントール」という物質が冷たさを感じる神経を刺激し、温度変化を感じたときと同じ作用が起こって冷たく感じる。メントールが含まれている冷却スプレーや冷却材も同様だ。

「しかし、メントールによって感じる冷感はいわば錯覚で、実際に体温を下げているわけではありません。暑い環境でそれらの冷感グッズを使って脳が『冷えた』と誤解すると、汗をかいて体温を下げるシステムを止めてしまう上、逆に汗腺を収縮させて体温を上げようとするケースも考えられます。すると、体内に熱がたまり続け、むしろ熱中症を引き起こす原因になってしまうのです」

 額に貼る冷却シートは、ジェルに含まれる水分が蒸発する際の「気化熱」によって、接している部分の温度を下げる。

「ただし、あくまでも限られた部分の温度が一時的に下がるだけで、深部体温までは下げられません。局所を冷やす氷枕も同じです。熱中症の予防では、水分補給のほかに深部体温=脳を冷やすことが重要になります。ですから、熱中症の症状が出た場合、首筋や脇の下など太い血管が通っている部分を冷やすことが常識になっています。全身を流れる血液を冷やすことで深部体温=脳を冷やすためです。冷却シートを額に貼っても脳までは冷えませんし、タオルやスカーフの冷却効果は短時間で持続性がありません。いずれも深部体温を下げる効果までは期待できないと考えていいでしょう」

 夏場に多く出回るいわゆる「クール入浴剤」の使い方にも気を付けたい。

 暑い中、風呂に入ってじっくり湯船に漬かっても体がひんやり感じる。このタイプの入浴剤の多くも、メントールによる錯覚で冷たさを感じさせている。

「夏場の風呂は、熱中症リスクが高い場所のひとつです。とりわけ窓がなかったり、閉め切った風呂場は室内の温度がどんどん上昇するので吸う空気も温かくなり、呼吸によって脳を冷やすことができなくなります。風呂でのぼせるのも脳の温度が上がるためで、そのまま体内に熱がたまると熱中症が起こります。『のぼせたな』と感じる前の段階で風呂から上がれば熱中症は避けられますが、クール入浴剤を使っていると脳が『冷たい』と錯覚しているので、のぼせた感覚がなくなってしまう。熱中症につながるリスクがアップするのです」

 冷感グッズは使い方に気を付けるべし。

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