Fさんは、「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と頭を下げて帰りました。
2日後の夜、Fさんが再び病室を訪ねると、やはりKさんの手には手袋と白い紐がついていました。Fさんの顔を見たKさんは、「あ、迎えに来てくれた。家に帰ろう」と口にしました。さらに、「あなたではない。私にはS子という娘がいたのです。S子を呼んでください。私は家に帰るのです」と言うのです。
「私を誰だか分からなくなるなんて……」
Fさんはとてもショックでした。しかし、このまま病院にお願いするしかない。「家に帰りたい」と言われても、どうすることもできませんでした。
さらに数日が過ぎて、Fさんは息子を連れてKさんを訪ねました。その日は手袋をはめていませんでした。しかし、Fさんと息子がいくら呼んでも返事はありません。2日後、Kさんは亡くなりました。
がんと向き合い生きていく