病の克服は患者に聞け

新型コロナ<前編>苦しくて人工呼吸器のチューブを噛みちぎり前歯を失った

中田仁之さん
中田仁之さん(提供写真)
新型コロナウイルス感染症<前編>

「また感染者が増えてきていますし、3回も感染した人がいると報じられているでしょう? あんな恐怖は二度と経験したくないので、いまだに電車にはほとんど乗っていません。ずっと車で通勤しています」

 4月初めに新型コロナウイルス感染症が発覚し、九死に一生を得て生還した中田仁之さん(50歳)は、当時を思い返すとゾッとするという。

 中田さんは幼少の頃から野球に打ち込み、大学時代には大学選抜メンバーに選ばれて海外遠征も経験した。大学卒業後は1部上場企業に入社して野球とは離れたが、かつての同級生や知人がケガや廃部によって野球をやめた途端に路頭に迷う姿を見て、今年4月からアスリートのセカンドキャリアをサポートする、一般社団法人S.E.A「日本営業大学」を立ち上げた。

 中田さんが新型コロナに感染したのは、同法人の開校式が予定されていた4月6日の直前だった。3月28日の夜に悪寒を覚え、翌29日に37度8分の熱が出た。中田さんは、妻、大学生と高校生の子供、80歳近い両親と一緒に一戸建て住宅で暮らしている。そのため、万が一に備えてすぐに家族との接触を絶ったという。

「自宅の部屋に1人でこもりました。両親は高齢ですし、父親はがんの手術を受けるために4月1日から入院する予定だったので、絶対に感染させるわけにはいきません。幸い、自分の部屋は2階にあり、両親は1階で暮らしていたので、しっかり自主隔離できました。後に濃厚接触者として妻と子供が受けたPCR検査も全員が陰性でした」

 その後、39度を超える熱が2日続いたが、新型コロナの典型的な症状といわれる咳や息苦しさの症状はなく、味覚も嗅覚も正常だったため、インフルエンザを疑ったという。

 かかりつけの内科を受診して検査を受けたが、インフルエンザは陰性だった。

 しかし、一向に熱は下がらず40度を超えた。最初の発熱から5日後の4月2日、中田さんは「本当にコロナかもしれない」と考え、かかりつけ医院に相談。コロナ疑いとして総合病院を紹介され、PCR、CT、レントゲンなどの検査を受け、そのまま入院することになった。

「総合病院で受けたCTやレントゲン検査では、肺には影もなくきれいで問題なしとのことでした。コロナの可能性は低いと思うが、高熱があるし念のため隔離入院しましょう、という感じだったんです。しかし、解熱剤を使っても熱が下がらず、入院3日目の4月4日からは意識がもうろうとしてほとんど記憶がありません」

 PCR検査の結果が出たのは4日。「陽性」だった。中田さんは意識が定かではない状態が続いていたため、家族が「陽性」の連絡を受けたという。さらに、血中酸素濃度(正常値99~96%)が98%から90%にまで低下。このままでは命の危険があると、全身麻酔をしたうえで口から人工呼吸器につながれ、6日にコロナ患者を受け入れている病院まで救急搬送された。

 昏睡状態の中田さんはそのまま集中治療室(ICU)に入り、10日後の16日まで一進一退の状況が続いたという。

「ICUに入る前から意識がなく、記憶もほとんどありません。後から聞いたところ、麻酔が切れると苦しがって暴れるのでまた麻酔をする……ことの繰り返しだったそうです。意識が戻った時、前歯が1本折れていることに気づきました。口から喉につながれていた人工呼吸器のチューブを、苦しさのあまり無意識に噛みちぎり、歯を折ってしまったんです」

 昏睡状態の中田さんはほかにも不思議な体験をしたという。

(後編につづく)

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