Dr.中川 がんサバイバーの知恵

胃がんは内視鏡とX線 企業と自治体の検診 使い分けのヒント

写真はイメージ
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 今春は、新型コロナウイルスによる自粛ムードが検診現場にも広がり、春の検診を延期した人が珍しくありません。そこに、自治体のがん検診の通知が届いたという人もいます。企業検診にがん検診のメニューも含まれると、自治体検診との兼ね合いに悩むかもしれません。

 ①従来通り会社の企業検診を受けて、自治体のがん検診は受けない②とりあえず自治体のがん検診を受けて、会社の企業検診を待つ。そんなパターンがあるでしょう。そこで今回は、考え方のコツをご紹介します。

 まず胃がんについて。自治体の胃がん検診は、40歳以上は1年に1回X線のバリウム検査で、50歳以上は2年に1回X線か内視鏡を選択することができます。

 ですから、49歳以下で会社もX線なら継続性という意味で会社で受診すればいい。50歳以上は、会社で受けていない方の検査を自治体検診で受けるのがベター。

 胃がん検診は内視鏡が基本ですが、難治性のスキルス性はX線の方が発見しやすい。会社で内視鏡を受けている人も、2、3年に1回は自治体検診を利用してX線検査を受けることです。

 乳がんは、X線によるマンモグラフィーが基本。しかし、高濃度乳腺とよばれるタイプの乳房の方は、マンモだと見逃しリスクが高い。そういう方は超音波との併用がベターです。自治体検診でエコーを受けられるなら、受けるといい。

 3つ目は、大腸がんについて。基本は検便で、2日分を採取します。3年続けて、延べ6日分を採取すると、がんの発見率は理論上97%と100%近い正確さです。検便で潜血が確認されると、がんのほかポリープや潰瘍など大腸の異常を知らせる手がかりとなり、内視鏡の精密検査を受けることになります。

 問題は、その精密検査の受診率の低さです。乳がん、肺がん、胃がんは8割を超えたのに、大腸がんは71%にとどまっています。その理由は、時間がない、費用がかかるだけでなく、多くの人が「痔のせいだろう」をあげるのです。

“痔主”なら便の出血を「いつものこと」と思うかもしれませんが、痔だけが原因で検便が陽性になるのはわずか2%といわれます。

 大腸がんは、多くが腸の深いところにできるため、便はまだ固まっていません。そこでの出血は便とよく混ざるため、説明書の指示通りまんべんなく採取すれば陽性になりやすい。

 しかし、痔は肛門の近くにできます。そこまできた便は固まっていますから、痔の出血は便の表面に付着する程度。付着していないところもあるため、陰性になる確率が高いのです。検便が陽性なら、痔主の方もぜひ内視鏡検査を受けることをお勧めします。

 米国は10年に1度の内視鏡検査を取り入れた結果、40年で死亡率が半減。陽性の人は確実に内視鏡検査を受けるのが無難です。陰性の人も念のため3~5年に1度は受けるとよいでしょう。

 企業検診にないメニューが自治体検診にあれば基本的に受けるといい。しかし、甲状腺は受けないこと。陽性でも治療しなくていいケースが多く、過剰診療が問題なのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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