麹の知られざる力

麹菌はやさしい微生物 だからこそ人間の免疫力を強化する

麴博士こと山元正博氏
麴博士こと山元正博氏(C)日刊ゲンダイ

 世界を混乱と恐怖の禍に巻き込んでいる新型コロナウイルス。最も感染者数と死亡者数の多い米国は人種対立をも誘発し、まさに世紀末的状況だ。

 一方、日本は、死亡率こそ5.3%と世界の平均に近いが、PCR検査の少なさ、つまり死亡率計算の分母となる感染者数の少なさを勘案すると、実質の死亡率はその10分の1程度ではないかとの声もあり、世界を驚かせている。

 しかし、「三代目河内源一郎」こと山元正博は「別に驚くに値しない。麹(こうじ)の生まれた国、麹を日常生活の友とする日本人には当たり前のこと」と言う。一体どういうことか?

 その前に、山元の経歴を簡単に説明しておこう。山元は1950年、鹿児島に100年以上続く麹屋「河内源一郎商店」(霧島市)の3代目として生まれる。麹屋とは日本酒や焼酎、味噌、醤油づくりに欠かせない種麹をつくる専門業者のことで、日本に5社のみ。河内源一郎商店は焼酎に使われる麹をほぼ独占している。

 山元は鹿児島ラ・サール高校から東京大学農学部に入学。同大学院の修士課程で酵母間の細胞融合に成功した。これは現在の遺伝子変換の基本技術となっている。

 東大大学院卒業と同時に帰郷し、河内源一郎商店に入社。87年代表取締役に就任。焼酎や地ビールの観光工場なども手掛け成功させる。しかし99年に経営を妻(現社長)に託し、再び研究の道へ。「源麹研究所」を設立し、麹の知られざる力を世に広める活動を始めた。

 2009年には「麹菌の畜産に及ぼす効果についての研究」で博士号(農学博士)を取得している。麹への愛情の深さから、人は「麹博士」と彼を呼ぶ。そんな山元が常々言うのは「麹は世界を救う」ということ。真意はこうだ。

新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真
新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(米国立アレルギー感染症研究所提供)
神仏習合をなした日本古来の伝統思想とも通じる

 欧州を原点とする微生物研究は、抗生物質を分泌する青カビの研究から始まった。青カビはペニシリンを分泌して“自分だけが生き残ろう”とする。つまり戦いに勝ちにいく菌だ。宗教問題や領土紛争で争いを続けてきた欧米にふさわしい。

 一方、日本発祥の麹菌は、他者を攻撃しない「やさしい微生物」だという。それは神仏習合をなした日本古来の伝統思想とも通じる。

「攻撃しないどころか、自分自身を犠牲にして周りの有用微生物を活性化します。体に良いことで知られる乳酸菌も麹菌があると格段に元気になります。そして人間が食べると免疫力を強化してくれます」

 排除するのではなく共生する――ウィズコロナが叫ばれている今こそ「麹に学ぶところがある」と山元は言うのだ。

 日本で生まれ、幅広く利用されながら、実態がほとんど知られていない「麹」。本連載ではその秘めたパワーを、山元への取材により一つずつひもといてゆく。=つづく

(文・小茂根均/アウトサイドサイエンスライター)

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