独白 愉快な“病人”たち

局所性ジストニアのERIKAさん 手術で頭蓋骨に穴を開け…

ERIKAさん
ERIKAさん(C)日刊ゲンダイ

「その弾き方おかしくない?」

 18歳のころから教えていただいているギターの先生にそう言われたのが異変の始まりでした。

 2018年1月、自分の27歳の誕生日イベントの準備で、先生にも手伝っていただいていたレコーディングの最中でした。そのときはまったく自覚がなく、言われてみて初めてうっすら左手小指のもたつきを感じた程度でした。「なんか変なクセがついちゃったのかな」と思い、その後、意識しながら練習しました。左手は弦を押さえるほうの手ですから、全指が滑らかに動くことが必須です。

 イベントが終わり、日がたっても依然としてクセが取れず、ますます「自分が悪い。練習が足らん」と思って、それまでにも増して練習しまくりました。後から聞くと、それが「ジストニア」という病気が深刻化する原因なのだそうです。でも、そのときはそんな病気があることすら知らなかったので「練習あるのみ!」と必死でした。

 幸か不幸か仕事も多く、ライブ、レコーディング、講師と、目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで、気付くと薬指も動きにくくなって初心者でも弾けるようなフレーズが弾けなくなっていました。そうなって初めて「もしかして病気かも?」と思い、「ギタリスト 病気」というキーワードでネット検索して出てきたのが「ジストニア」という病名でした。症状がぴったり当てはまり、「これだ」と確信したのが2018年9月です。

 ジストニアは脳の神経疾患です。なので、自宅近くの脳神経科を受診したのですが、そこではジストニアとは診断されませんでした。鍼灸院にも通いましたが、効果が感じられず、セカンドオピニオンを申し出て、ジストニアを専門に扱う病院を紹介してもらいました。

 そこを受診すると、打って変わってすぐに手術を勧められました。

 開頭して左手の小指と薬指をもたつかせている原因の神経を電気で焼くという手術です。私はギターが弾けるようになるなら何でもよかったのですが、親は「日常生活に何の問題もないのにそこまでするのか」と反対。しばらくは薬でしのぐことになりました。

 ただ、薬は飲めば多少の効果を得られるものの、動悸やのどの渇きといった副作用が多いので、継続するのは無理だと思い、結局、手術に踏み切りました。

■「頭蓋骨に穴が開いた瞬間がわかりました」

 手術はジストニアの術例が多い病院で行われました。事前にジストニアで手術をした先輩に一部始終を聞いていたので特に怖くもなかったですし、不安よりも治る期待の方が大きかったので、ワクワクして手術当日を迎えました。それが2019年10月です。

 でも、いよいよ頭に固定用の器具を取り付ける段になってまさかの大号泣……。

 器具を付ける際の麻酔注射の強烈な痛みと、それまでのつらかったことや、治らなかったらどうしようといった不安が一度にやってきてしまったんです。とはいえ、手術まで3時間ぐらいあったので、落ち着いたら器具を付けた自分が面白くなって自撮りしてました(笑い)。

 手術は局所麻酔だったので、ドリルで頭蓋骨に穴を開けるときの振動や音を感じました。工事現場みたいな印象です。貫通したとき「ボコッ」という音がして、穴が開いた瞬間もわかりました。

 そして、そのままギターを持たされて手術台であおむけのまま弾かされました。医師から「ここはどう?」と言われては弾き、治療箇所を探っていくのです。頭蓋骨を開けたままギターを弾くなんてめったにできない経験ができたなと、今では前向きに捉えています。

 1時間ほどで手術は終わり、入院も1週間ほどであっけないくらい順調でした。

 でも、すぐにプレーが元通りになるわけではなく、今もまだ完璧ではありません。というのも、異変に気付いてから手術までの間、動きにくい指をごまかしながら弾き続けていたので、そのクセがなかなか取れないのです。

 退院後も仕事は順調にあったのですが、もともとネガティブ思考なので「元通りになるのかな」と心配でした。そのうち新型コロナウイルスの影響で考える時間が増えて落ち込んでいきました。

 でも、一周回って「人と比べても仕方がない。自分のぺースでこの病と向き合っていけばいい」と思えるようになって、楽になりました。確かなのは「ギターを弾けることが楽しい」ということ。病気と闘った経験は、きっと表現者としてプラスになる。私にしか出せない表現力が生まれると信じています。

 病気になって、周囲の人たちの温かさを実感しました。病気だなんて言ったらどう受け止められるかわからないので誰にも相談しなかったのですが、伝えてみたら、みんな親身になって支えてくれました。つくづく「1人じゃない。みんながいるから今の自分がある」ことを確認できました。

 10代のころの自分は殻に閉じこもっていたけれど、ギターに出合って世界が変わったんです。だから私はいろんな人にギターの楽しさを伝えたい。ライブプレーでもギター講師でも、活動の根底にあるのはその思いです。

(聞き手=松永詠美子)

▽えりか 1991年、東京都生まれ。18歳でギターを始め、プロを目指して専門学校で学ぶ。アマチュアバンドからスタートし、2014年にソロギタリストとして活動をスタート。現在はロックバンドを中心にアニソンやアイドルなどのサポートギタリストとしてライブやレコーディングに参加している。各種イベント、ラジオ出演、雑誌掲載などのほか、ギター講師としても活躍中。

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