電車の中などで、顔を真っ赤にしながら、突然怒り出す中高年を見かけることがあります。あるいはまた、若い人たちが会話の最中に、いきなり怒って暴言や暴力を振るってしまう。
こうした感情の急変を、「キレた」とか「頭に血が上る」という表現を用いることがあります。では実際、このような急変する感情の変化と血流の間に、医学的にはどのような相互関係があるのでしょうか。
頭に血が上るとは、一般的に血圧が急に上がったときの頭痛の症状を指すことがあります。また、ほてりを指すこともあり、それに血管の拡張による顔、頚部、頭部などの充血感、熱感を指す場合があります。
では「興奮」のメカニズムはどういうことでしょうか。これは何らかの刺激を受けることで、安静の状態から体が活動状態に変化することです。
もちろん興奮するのは、怒りを感じたときだけではありません。素晴らしい景観、演劇そして映画・テレビなどを見たときや音楽を聴いたときも興奮します。興奮を起こす外部からの情報は脳の中の視床下部室傍核に入り、視床下部―下垂体―副腎皮質系だけでなく交感神経系を活性化させます。交感神経の作用で情報を伝えるホルモンのアドレナリンやノルアドレナリンが副腎髄質で作られ、これら神経節や脳神経系における神経伝達物質が興奮による体の反応を起こします。
例えば、いきなり後ろから背中をドンと押されて驚かされたときなど、心臓がドキドキしてしばらく止まらない経験があるでしょう。あのドキドキ感が、心臓に働くアドレナリンの作用なのです。ノルアドレナリンは、副腎髄質や神経末端から放出され、血管を縮めて血圧を上昇させる役割もあります。
つまり、体にストレス(恐怖、怒り、不安、注意など)反応が起こると、中心的役割を果たすアドレナリンなどが血中に放出されます。すると、心拍数や血圧を上げ、体を攻撃態勢に変え、瞳孔も開き血糖値を上げる作用も出てきます。
一方、体を守るため、エネルギーを節約し、さらにストレスによってタンパク質合成が狂い病気になるのを防止するために、遺伝子レベルからの合成命令(翻訳)を全体的に抑制します。
「お父さん、そんなに怒ると血圧が上がるよ」と言う子供のアドバイスも、まんざら見当違いではありません。
なお、血液型(A型、B型、O型、AB型)と、人の性格について多くの本が出版されています。怒りっぽい人、優しい人、短気な性格などと血液の関係です。
これらは医学的エビデンスに乏しく、長いこと日本人の迷信と捉えられてきました。ところが最近になって、遺伝子多型とABO血液型の感情や性格の関係について、弱い相関があることが報告されました。まだまだ、興味をそそられるところです。
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