第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<13>コロナの感染力は高まるも毒性は変化せず 変異に注意

(米国立アレルギー感染症研究所提供)

 新型コロナウイルスに生じる突然変異は、ほとんどウイルスの性質を変化させない、もしくは感染や複製する効率が落ちるものであるということを6月17日付けの本コラムに執筆した。しかし、例外的に気をつける必要がある突然変異として、スパイク(突起)タンパク質の614番目のアミノ酸が変化する変異についても取り上げた。最近、その変異について日本を含め世界各地の研究グループから解析報告が相次いでいるため、本コラムではそれら最新の知見を取り上げる。

 コロナウイルスの名前の由来ともなった「王冠」のような形状の突起は、スパイクタンパク質が3つ束になったものである。スパイクタンパク質はタンパク質分解酵素によってS1とS2という2つのサブユニットに切断され、S1サブユニットがヒト細胞の受容体ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)と相互作用し、S2サブユニットがヒト細胞との膜融合、すなわちヒト細胞への侵入に関与することが知られている。S2サブユニットはウイルスの膜に貫通しているが、S1サブユニットはウイルス粒子そのものとは直接結合しておらず、S2サブユニットとの相互作用によってウイルスの一部となっている。

 新型コロナウイルスの流行初期は、スパイクタンパク質の614番目はアスパラギン酸というアミノ酸であった。しかし、それがグリシンという別の種類のアミノ酸へと変化した変異ウイルスが、今年の1月下旬に中国とドイツのサンプルから発見されている。その変異を持ったウイルスはヨーロッパで爆発的に増加し、世界各地に広がった。実際、2020年5月の時点ではゲノム配列が解読されている新型コロナウイルスのおよそ7割はこのアミノ酸置換がある変異体ウイルスである。日本も例外ではなく、現在の報告されている新型コロナウイルスの配列はこの変異ウイルスが主である。

 この変異した新型コロナウイルスは、オリジナルのものと比較して、細胞での増殖能力が向上し、患者由来の上気道(鼻・口・喉など)検体からのサンプルでもウイルス量が増加している傾向があったとの報告があった。別な研究グループも、この変異ウイルスは3~9倍ほど感染効率が上昇していると報告した。また、614番目のアミノ酸はS1サブユニットにあり、S2サブユニットとの相互作用に関与している。614番目のアミノ酸がグリシンに変化することにより、S1とS2の相互作用がより強固になるため、感染力を維持できるのだろうという報告もあった。ただし、いずれの研究グループも、このウイルスの変異が症状の悪化や、免疫からの逃避などに関連するようなデータは出ていないと報じている。

 この変異はすでに広がっていて、新しい特別な対策が必要な変異ではないだろう。一方で、今後もこのような変異が生じる可能性は否定できないため、引き続き新型コロナウイルスのゲノム解析を続けていくことは必要である。

(東海大学医学部基礎医学系分子生命科学情報生物医学研究室・中川草)

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