蛭子能収氏はレビー小体とアルツハイマーの合併 では日本人に多い「脳血管性認知症」とは?

蛭子能収さん
蛭子能収さん(C)日刊ゲンダイ

 漫画家でタレントの蛭子能収さん(72)が、初期の認知症を患っていることがわかり、改めて認知症に関心を持った人も多かったはずだ。診断基準によって異なるが、一般的に認知症の約9割は、「アルツハイマ―型」、「レビー小体型」、「脳血管性」そして「前頭側頭型」が占める。蛭子さんの認知症はレビー小体とアルツハイマーの合併タイプだが、それぞれどういう特徴があるのか? 従来日本で多かった脳血管性認知症(VaD)について、東邦大学名誉教授の東丸貴信医師に聞いた。

「脳血管が詰まったり、破れたりするのが脳血管障害で、それにより脳血管周辺の神経細胞が壊れて発症する認知症が脳血管性認知症です。背景には血管の壁が厚くなって柔軟性を失い、血流量が低下する動脈硬化があり、その進行を加速させるのが高血圧症、糖尿病、脂質異常症や喫煙といった成人病(生活習慣病)です。とくに重要なのは高血圧症で、長期間放置していると認知症になりやすいことがわかっています」

 脳には頸動脈から分かれた前大脳と中大脳、椎骨脳底動脈から分かれた後大脳の3つの主要動脈があり、皮質表面を走る太い血管(皮質枝)と、そこから枝分かれして、脳の深部を走る細い血管(穿通枝)がある。

 脳血管障害には、血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞があるが、認知症を起こしやすいのは圧倒的に脳梗塞である。とくに穿通枝の障害により起きる小血管性認知症が多くみられ、脳血管性認知症の約半分を占めるという。

「小血管病としては、穿通枝が詰まって15ミリ以下の小さな梗塞が多発する無症候性のラクナ脳梗塞と大脳の奥にある白質病変(血流低下により脳の内側の神経線維の束がMRIで白い色をした点状から斑状の病変としてみえる)そして微小出血病変があります。また、広範に白質病変で侵されるものに高血圧症が関係するビンスワンガー病や過度の血圧低下などによる血液循環不全が原因の低灌流性脳血管性認知症があります。脳血管性認知症にはほかに、一つは、大脳皮質領域(脳表面に近い部分)を中心に大小の梗塞が多発する多発梗塞性認知症、太い血管だけが詰まる単一梗塞による認知症があります。

■認知機能は「まだら状」に保たれる

 症状は障害される脳の領域により異なるが、アルツハイマー型のように全般的な認知機能が徐々に低下するのとは違い、新しいことを覚える力は低下しても、理解力や判断力は保たれることが多い。そのため、アルツハイマー型よりも人格が保たれているケースが多いという。また、意識がしっかりして活動的なときとボーッとしているときが繰り返される「まだら認知」となる場合が多い。

「脳血管性認知症にはほかにも特有の症状があります。場違いに泣いたり笑ったりする感情失禁や欲求を制御できずに物を無制限に欲しがったり、お金を浪費したりします。また、病気の引き金が脳血管障害ですから、片麻痺、失語、うまく呑み込めない嚥下障害や正しく発音できない構音障害の症状があらわれることがあります。さらには実行機能障害といって、段取りを考えて行動することができなくなり、意欲が低下するアパシーと呼ばれる状態になることも多いのです。そして、前頭葉の血流が低下するため注意力が保てず間違いが増えるという特徴があります」

 認知機能は、脳血管障害の再発のたびに悪化する。そのため、徐々にではなく一進一退を繰り返しながら段階的に症状は進行していく。例えば、小刻みな歩き方から始まり、意欲の低下が見られ、言葉がハッキリしなくなると共に嚥下障害があらわれ、記憶障害となり、尿失禁などへ移行していく。

「脳血管障害のなかで最も認知症を引き起こしやすいのが脳梗塞であるため、脳梗塞を起こさないことが重要です。糖尿病、高血圧症や脂質異常症など生活習慣病にならないよう食べ物に気をつけ、普段から運動をして血流を良くしておくことが予防に繋がります。そして、降圧薬などの生活習慣病の治療薬のみでなく、抗血小板薬や抗凝固薬といった血液サラサラの薬に血管性認知症を予防する効果があることも知られています。一方、脳梗塞が起きたときになるべく早く脳の血流を回復させることが大切です。いまは発症後4・5時間以内ならt-PA(アルテプラーゼ)と呼ばれる血栓溶解剤を静脈注入すれば、すばやく血栓を溶かすことができます。最近はカテーテル(細長い管の医療器具)を血管内に進めて、脳の血管に詰まった血栓(血液の塊)を絡めて回収する血栓回収療法と併用することで治癒率がアップしています。ただし、両方の治療法を24時間365日行える病院は限られているため、予め調べておくことが大切です」

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