進化する糖尿病治療法

持病があってハッピー!定期検査で病気知らず健康で長生き

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写真はイメージ(C)PIXTA

 糖尿病歴20年になる67歳の男性Aさんは、現在1カ月に1度、自宅近くにあるクリニックを受診しています。定年退職前は勤務先に近いクリニックを、1カ月から1カ月半に1度は必ず受診していました。

 多忙な現役時代、定期的な受診を可能にできたのは、クリニックの受診日を「大切な体のメンテナンス日」と捉えていたからです。

 継続して通いやすい立地や診療時間のクリニックを選び、「行ける時には行く」では目の前にある仕事のスケジュールを優先してしまうからと、事前にカレンダーに受診日を書き込むようにしていました。急な仕事で行けなくなれば、すぐに新たな受診日を決めたそうです。

 そのようにしたのは、Aさんの父親も糖尿病だったことと関係があります。合併症の腎機能障害に至ってしまい、人工透析で大変な思いをされていたとか。その姿を見ていたので、自身が糖尿病と診断された時、とにかく合併症にならないようにしよう、血糖コントロールを良好に保とうと、決めたそうです。

 定期的に検査を受けていますから、ほかの病気のチェックも併せてできます。1カ月に1度、医師や看護師と顔を合わせていれば、「自分のことをよく知ってくれている」という気安さから、受診のついでにちょっとした体の不調も気軽に相談しやすい。

 そうやって50代の時に見つかったのが、大腸がんでした。「便が最近くさいような気がする」とポロッと口にしたところ、「年齢的にも、一度大腸内視鏡を受けてみたら」と勧められ、主治医が紹介してくれた消化器内科をすぐ予約。幸いにも早期がんだったので、内視鏡治療で済みました。

■賢く主治医を選ぶことがポイント

 インフルエンザのシーズンには、「ついでに」ワクチン接種をするので、インフルエンザにもかかったことがない。クリニックに置いてある冊子や、医師・看護師とのやりとりから、糖尿病はもちろん糖尿病以外の病気に関しても正しい知識を手に入れられる。

 定年退職後、通いやすい自宅近くのクリニックに変えてからも医師や看護師との関係は、以前のクリニックと同じようなもの。糖尿病になったことはうれしいことではないものの、なんでも相談できるかかりつけ医を持てたことは、健康を維持する上でよかったと、Aさんは考えているそうです。

 私が担当している患者さんも、Aさんと似たような話をされる方が結構います。また、糖尿病で定期的な検査を受けている方のほうが、一病息災ではないですが、かえって健康的に長生きされる印象があります。糖尿病によってリスクが高くなる病気を理解して対策を講じていますし、さらには食生活に気をつけ、適度な運動を取り入れるなど、日頃から体のことを気遣っているのが大きいのでしょう。なんらかの病気があっても、早期発見にもつながりやすい。

 人間ドックも病気の早期発見に役立ちますが、定期的に受けている人でも年に1度です。その方の状態に特化した内容でもありません。そう考えると、人間ドックは万全ではないと言えます。

 Aさんのように、糖尿病であることを上手に利用して健康に長生きするには、できれば「糖尿病以外の病気はウチではちょっと」などと言わない主治医を探したほうがいい。薬をただ処方してくれるだけのところも避けたほうがいいかもしれません。神経障害、網膜症、腎機能障害といった3大合併症のほか、心不全、脳血管障害、がんなど糖尿病が関係する糖尿病以外の病気はたくさんあります。それらの治療はできないにしても、気をつけるべき病気のチェックや受けるべき検査の紹介などをしてくれる医師がいいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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