完治困難な膵臓がんの治療が変わった 新薬が6年ぶりに登場

胃痛や腹痛は膵臓がんのサインかも
胃痛や腹痛は膵臓がんのサインかも(C)日刊ゲンダイ

 膵臓がんの新しい抗がん剤が6年ぶりに登場した。膵臓がん治療の最前線について、杏林大学腫瘍内科学の古瀬純司教授に話を聞いた。

 新薬の名前は「イリノテカン リポソーム(商品名オニバイド)」。3月に承認、6月から臨床使用が可能になった。

 この登場によって変わったのは「2次治療」だ。それに触れる前に、まず膵臓がんの治療について説明しよう。

「わが国の統計によると、膵臓がんは患者数が年1400人、死亡数が年1000人程度増えています。早期発見が難しく、約50%が遠隔転移、30%が切除不能局所進行で発見されます」

 遠隔転移、切除不能局所進行ともに、手術で膵臓がんを切除し取り除ける段階を超えた、完治が困難な状態だ。そこで行われるのが、抗がん剤を使った延命治療。具体的には「ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(いずれも抗がん剤)」または「フォルフィリノックス(3種の抗がん剤と増強剤を組み合わせたもの)」になる。

「大半はゲムシタビンとナブパクリタキセルの治療になります。ところがほぼ全員の患者さんが治療中増悪、あるいは副作用で中止せざるを得ず、50~60%の患者さんが次の治療(2次治療)へと進むことになります」

■2次治療も変わった

 2次治療では、最初の治療(1次治療)で使わなかった抗がん剤を使う。しかし2次治療で有効性が証明された抗がん剤はなく、医師が手探りで薬を投与していくしかなかった。今回の新薬「イリノテカン リポソーム」は、2次治療での有効性が初めて証明された抗がん剤だ。治験では、「ゲムシタビンとナブパクリタキセル」など、ゲムシタビンを含む1次治療を受けた後、増悪した患者を対象に、「新薬単独」「抗がん剤5―FUとその増強剤(従来2次治療でよく使われていた薬。以下=5―FU/LV)」「新薬+5―FU/LV」の3群の全生存期間を比較した。結果、「新薬と5―FU/LV」の併用群が、新薬単独、従来薬のいずれよりも全生存期間が有意に長かった。つまり、新薬と従来薬の併用が2次治療で有効であると証明された。

「2次治療でエビデンスのある治療法が登場した。患者さん、そのご家族、医療者が待ち望んでいた治療法です」

 悪心、好中球数減少、食欲減退、白血球数減少、下痢、便秘などの副作用が治験で確認されている。ただし新薬は、1次治療の選択肢のひとつ「フォルフィリノックス」に含まれる抗がん剤イリノテカンをもとに開発したもので、膵臓がんの抗がん剤治療経験がある医師なら、ある程度管理に慣れている。とはいえ新薬なので、未確認の副作用が出てくる可能性もあり、慎重に投与しなければならないことは言うまでもない。

 膵臓がんは早期発見が難しいがんだと述べた。とはいえ、約20%の患者は完治が期待できる切除可能のステージⅠ・Ⅱで発見されている。知っておくべきは、膵臓がんが疑われる症状「腹部・背部痛」「黄疸」「糖尿病の増悪」だ。

「胃痛や腹痛、背中痛がある時、胃や腸などの検査で異常なしとなっても安心せず、念のために膵臓も調べる。糖尿病の血糖コントロールが急に悪化したら、膵臓がんも疑う。それが膵臓がんの早期発見につながるかもしれません」

 家系に膵臓がん患者がいる、糖尿病・慢性膵炎・肥満がある、喫煙・大量飲酒の習慣がある、膵嚢胞がある人は、リスクが高いことも分かっている。複数のリスク因子を持つ人は、1~2年に1回、超音波検査などを受けるべきだ。

 なお、昨今注目が高まっている免疫チェックポイント阻害剤だが、膵臓がんにおいては、いまだ期待できるデータは出ていない。

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