絶望してはいけない 命をつなぐ僧侶の言葉

置き去りにしていた自分の気持ちを見つめる機会にする

臨済宗妙心寺派大禅寺の根本一徹住職
臨済宗妙心寺派大禅寺の根本一徹住職(C)日刊ゲンダイ

【Q】2ヶ月の間リモートワークが続いたのですが、満員電車に乗って疲れることもなく、朝もゆっくり寝ていられるし、上司や同僚とも最低限の業務に関するやり取りだけしていればいいのが結構快適でした。おかげで通常業務が再開してからというもの、ますます会社に行くのが憂鬱でたまりません。こんな私は、いったいどうしたらいいでしょうか?

【A】私は岐阜の大禅寺で住職を務めながら、長年自死予防の活動をしています。SNSもmixiの時代から、死にたいという気持を持つ人の話を聞くために使っていましたが、最近の相談活動は対面をベースにしてきました。しかし、今回のコロナでは、初めてZoomで坐禅会を拾いたり、いろんな人と話し合ったりしたのですが、パソコンの画面越しに長時間話すというのは、結構疲れるものですね。

 しかし、相談者の方はリモートワークが快適だったので、むしろ会社にいくのが嫌になってしまったとのことで、よほどパソコンに長けている方なのだと思います。中高生でもいちばん自死が多いのは夏休みが終わって二学期が始まる前だという統計がありますから、普段の日常に戻るというのは、それだけ負荷のかかることなのですね。

 本当に出社するのが嫌だったら、これからもリモートワークを続けたいです、と宣言すれば、受け入れてくれる会社も結構あるような気もします。出社するのが嫌になったというのは、それだけ家の中で仕事をするのが向いていたわけで、リラックスできる家のほうが、仕事のパフォーマンスも上がって、同じ時間で多くの成果を出せたということですよね。会社がそのことを理解すれば、むしろ在宅勤務のほうが交通費がかからないなどのメリットもありますし、新しい勤務スタイルを認めてくれる可能性もあります。

 実際朝早く起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べて、歯を磨いて髭をそって、スーツを着てネクタイを締めて電車を乗り継いで出勤するというのは大仕事ですから、一日のエネルギーの半分くらいを会社への行き帰りに使っていたということだってありえます。これからはそのエネルギーをもっと仕事そのものに使うために、自宅での仕事へシフトチェンジしていったほうがいいという、そういう貴重な気づきをもらえるいい機会が今回のコロナだったのかもしれないですよね。

 先日も80代の女性が路上生活になってしまったといってやってきたのですが、何も持たずにあちこち行脚していて、まるで修行僧みたいですね、って言ったんです。ゼロになったのだから、これから生き直す気持ちで過ごすのもいいのでは、とお伝えしたのですが、相談者の方も、今までオフィスでは慌ただしすぎて置き去りにしていた自分の気持ちや、深いところの生き方や生き様、どのような魂を磨いていったらいいかということを見つめる機会にする。そうすればもしまたオフィスに戻ることになったとしても、仕事への向き合い方が以前とは違ってくるというふうに、成長できるのではないかと思います。

▽根本一徹(ねもと・いってつ)1972年東京生まれ。臨済宗妙心寺派大禅寺住職。「いのちに向き合う宗教者の会」代表。98年に出家し04年より自死防止活動を開始。国内外の国際会議で「世界仏教徒会議」日本代表発表者として登壇。

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