目を閉じればアッという間に眠れる。いつでもどこでもすぐに眠れるから、睡眠に悩んだことはない――。該当する中高年の方もいらっしゃるでしょう。一見、睡眠トラブルとは無縁に思えますが、実は慢性的な睡眠不足の兆候である可能性があります。
われわれの脳は、目を閉じてから眠るまでに10分ほどかかる構造になっています。目を閉じた後、もやもやとまどろむ時間があって、徐々に意識を失って眠る……というのが本来の仕組みです。 こうした「間」がなく、アッという間に眠れる場合、睡眠障害の分類で「行動誘発性睡眠不足症候群」と呼ばれるケースがあります。慢性的な睡眠不足により脳の覚醒レベルが低く、日中から眠くなっているのに刺激を与えて無理やりに起こしている状態です。
たとえば、会議中に自分が話しているときは眠くないのに、他人が議論を始めると意識が遠のいていく……といった様子があれば、行動誘発性睡眠不足症候群の疑いがあるといえます。行動誘発性睡眠不足症候群では、自分の睡眠を無自覚に削る生活習慣がつくられてしまっています。そのため、次のような3つの兆候が見られます。
①日中、特に午前中から眠気がある
②勤務日よりも休日の方が長く眠る
③目を閉じて8分未満で眠れる
この3つの兆候に当てはまっているようなら、慢性化した睡眠不足を解消することをおすすめします。そのためには「累積睡眠量」を増やすのが効果的です。
睡眠量というと、「1日8時間寝るのが理想的」といったように1日単位で考えている人がほとんどです。しかし、脳の活動は、「起きている時間」「寝ている時間」などと1日単位で区切られているわけではなく、連続しているものです。睡眠時間はもっと長いスパン、1カ月間のトータルで考える必要があります。つまり、1カ月の累積睡眠量を増やせば、慢性的な睡眠不足を解消できるのです。
たとえば、1日15分でもいいから普段より早寝すれば、1カ月トータルで7・5時間分の睡眠時間を増やせます。このように少しずつでもいいから累積の睡眠量を稼いでいくことが大切です。
累積睡眠量をどのくらい増やせばいいのかは、個人によって変わってきます。「起床から4時間後に眠気があるかどうか」を確認して目安にしてください。
われわれの生体リズムは、起床4時間後に脳の活動が最も活発になるようにできています。この時間に眠気があれば、1日単位の睡眠が足りていないと判断できます。
たとえば、朝7時に起きている人なら、午前11時に眠くならなければ、前夜の睡眠時間が1日単位で適切な量ということです。それを30倍すれば、自分にとって1カ月で必要な睡眠量を計算できます。1日6時間でOKだった人は、1カ月で180時間が適切な累積睡眠量になります。もしも1カ月トータルで5時間不足しているなら、1日10分だけ早寝すれば満たせるのです。
累積睡眠量が増えてくると、目を閉じた後で少しまどろむような「間」が生まれます。体の力が抜けて意識が薄れてくる気持ちの良い感覚があれば、慢性的な睡眠不足を解消できていると考えていいでしょう。
中高年の正しい眠り方