病の克服は患者に聞け

新型コロナ<前編>たらい回しにされて検査も受けられず…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「ああ、これは新型コロナウイルスだなとすぐにピンときました」

 都内の金融系企業に勤めている町田祐介さん(仮名・30歳)は、今年のゴールデンウイーク直前にいきなり39度を超える高熱が出た。町田さんは平熱が37度前後で、普段は風邪をひいても38度以上に上がることはほとんどない。過去に数回、40度近い熱が出たときもすぐに平熱に戻った。しかし、今回は1週間以上も40度近い高熱が続いた。

「新型コロナに感染してしまったという確信がありました。私は緊急事態宣言が出された後も在宅勤務にはならず、その間も同僚や取引先など、何人もが同席する会食や飲み会がありました。みんな新型コロナを甘く見ていたんです。そのうち、参加者の1人に感染が発覚して隔離されたという報告がありました。その人と一緒だった飲み会があった2日後に高熱が出たので、これは間違いないと思いました」

 妻と4歳になる子供の3人で都内のマンションに暮らしている町田さんは発熱するとすぐに自室にこもって自主隔離生活を始めた。子供は実家に預け、妻ともほとんど接触を絶った。高熱でふらふらになり起き上がれなかったため、マスク姿で食事を自室に運んでくれた妻には助けられた。

 新型コロナを疑った町田さんは、高熱に苦しみながら居住エリアの保健所に電話連絡を入れ、PCR検査を願い出た。しかし、けんもほろろに断られたという。

「感染者と接触があったのに、その時点での症状は高熱だけだったため、それを説明すると『違う部署に電話してください』と言われました。それで、指示された部署に電話したら、今度は『病院に行ってください』と言うんです。いきなり病院に出向いてしまっていいものか疑問に思いながらも、地元でコロナ患者を受け入れている病院があったので、足を運んで窓口で経緯を説明しました。すると、『すぐに帰宅して保健所に連絡してくれ』の一点張りで、診察すらしてもらえませんでした。結局、その後も保健所に4回連絡しましたが、すべて検査は断られ、ずっとたらい回し状態でした」

■呼吸の仕方がわからなくなってパニックに

 PCR検査で陽性と判定されれば隔離されて治療が受けられるのに、このままでは薬すらもらえない……。焦りや怒りを感じながら、救いを求めて他の総合病院やクリニックに電話して事情を説明しても、検査や診療どころか来院もすべて断られた。

「保健所や病院に連絡を入れているうちに咳がひどくなり始め、呼吸もしづらくなってきました。寝ている最中に息苦しくて目が覚め、これまでどうやって呼吸していたのかがわからなくなって、パニックになったこともありました。もしもこれが新型コロナ以外の肺炎だった場合、このまま悪化して死ぬなんてことになったらたまらない。そう考えて、いくつかの病院に『肺の検査だけでもしてほしい』と訴えましたが、それも断られました」

 救急車を呼ぶことも考えたが、同じマンションの住人の目が気になった。救急搬送となると大ごとになり、「新型コロナに感染したらしい」とウワサになると、妻と子供がいわれのない中傷を受けて生活しづらくなる……。そう考えると、どうしても119番に電話をかけられなかった。

「そうこうしているうちに、熱が徐々に下がり始めました。1週間ほどで平熱に戻り、息苦しさもなくなりました。念のため、それから1週間ほど自主隔離を続け、会社に復帰したのは5月中旬でした」

 本当に新型コロナ感染症だったのかどうかわからないまま、自力で生還した町田さんだったが、その後、思わぬ形で感染の事実を知ることになる。

(後編につづく)

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