進化する糖尿病治療法

糖尿病の人が今すぐ行うべき認知症の発症回避対策

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 アルツハイマー型認知症は最も多い認知症ですが、糖尿病の人はインスリン抵抗性(インスリンが正常に働かなくなる)によって、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβが脳内に蓄積しやすくなることが研究で明らかになっています。

 また、糖尿病を長く患っていると、動脈硬化が進行し、脳梗塞や脳出血を起こしやすくなります。加えて、糖尿病の人は高血圧、脂質異常症も抱えているケースが珍しくありません。それによってリスクが高くなるのが、認知症の中で2番目に多い血管性認知症です。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血で脳の神経細胞が障害を受けて起こる認知症です。

 つまり糖尿病はアルツハイマー型認知症になりやすく、血管性認知症にもなりやすい。あるデータでは、糖尿病の人はそうでない人に比べて、アルツハイマー型認知症のリスクが約1・5倍高く、血管性認知症のリスクが約2・5倍高いとされています。認知症のトップ2のリスクが高いという事実は、深刻に受け止めなければなりません。

 さらに問題視したいのは、認知症を発症した後の糖尿病治療です。糖尿病治療は、食事、運動、薬物治療の3本柱が基本です。しかし認知症で認知機能が低下すると、食事や運動の管理がうまくできなくなります。定期的な薬の内服や注射も管理しづらくなります。

 同居するご家族がいる場合は、ご家族の負担が増えますし、一人暮らしの場合は、なんらかの対策が必要。しかし、そうしていても認知症発症前と同じように糖尿病治療がうまくいかず、糖尿病が悪化してしまうケースが珍しくないのです。

 7月8日(米現地時間)、米国の製薬会社「バイオジェン」がアルツハイマー型認知症の治療候補薬について、FDAへの生物製剤ライセンス申請を完了したことを発表しました。これまで承認されている薬は認知機能を一時的に改善するに過ぎないのに対し、今回の候補薬は認知機能の低下を抑えられたとの結果が臨床試験で出ており、世界初のアルツハイマー型認知症治療薬になるのではないかと、期待されています。

 しかし現段階ではFDAに承認されるかどうかはなんとも言えません。承認されたとして、日本に入ってくるのは何年も先でしょうし、しばらくは非常に高額で、一般の人が使えるようになるまでは時間がかかると思われます。

■症状が出てきたらすぐ病院では遅い

 となると、現在糖尿病を抱えている人は、将来の認知症対策として、何をすべきか?

 認知症を疑うような症状が出てきたら早く病院に行って検査を受ける。これは確かに早期発見という意味で有効ですが、症状が出てきているということは、すでに認知症を発症しているということ。認知機能を一時的に改善する薬しか現段階ではないため、できるなら、発症する前になんらかの対策を講じたい。

 そうなると、確実にできる対策は、血糖コントロールしかありません。前述の糖尿病治療の3本柱にきちんと取り組む。高血圧、脂質異常症がある人は、血管性認知症のリスクを下げるために、それらの治療にも取り組む。

 米国の2型糖尿病を対象にした研究では、HbA1cの上昇とともに認知機能が低下することが示されており、HbA1c7・0未満を目標にコントロールすることが、認知機能を良好に保つ上で必要であるとの結果が出ています。

 さらに、低血糖を起こさないことも重要です。血糖値が下がりすぎる低血糖は、脳の神経細胞にダメージを与えるからです。重症低血糖のある人は、そうでない人に比べて認知症の発症リスクが2倍になるとの報告もあります。

 血糖コントロールは、将来後悔しないための方法でもあるのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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