進化する糖尿病治療法

「冬前にはHbA1cを8%未満へ」私が今、患者にそう言う理由

継続的に食生活を改善
継続的に食生活を改善

 健診前に食生活を改めて空腹時血糖値は基準値以内に収められたとしても、付け焼き刃の食事法では改善できないのがHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。 過去1~2カ月間の血糖コントロールを示すので、継続的に食生活を改めなければ、この数値は下がりません。

 今、私は患者さんに「冬前にはHbA1cが8・0%を確実に切るようにしてください」と伝え、薬や食事、運動の指導を行っています。

 新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスは、ともに気温が低くなれば、より感染・発症率が高くなります。

 この冬、流行するコロナ、インフルエンザ予防のために、血糖コントロールを良くし、感染しても発症しない、たとえ発症しても重症化しないように準備をしておかなくてはならないからです。血糖コントロールは一朝一夕では改善されません。今から行動に移す必要があります。

 繰り返し報じられているように、糖尿病の人はコロナやインフルエンザをはじめとする感染症にかかりやすく、悪化しやすい。世界中からいくつもの調査結果が報告されています。米疾病対策センター(CDC)の報告では、糖尿病患者がコロナに感染した場合、基礎疾患のない人より入院を要する確率が6倍、亡くなる確率が12倍高くなるとのことです。

 また、中国の報告ではコロナに感染した糖尿病患者のうち、血糖コントロールが良好な人はそうでない人より死亡率が低いとの結果でした。

 糖尿病患者が感染症にかかりやすく、重症化しやすいのには主に5つの理由があります。それは「体内に侵入したウイルスや細菌を食い殺す好中球(白血球の成分のひとつ)の機能低下」「免疫反応の低下」「動脈硬化による血流の滞りで、細胞の働きが悪くなったり白血球が感染部位に到達しにくくなる」「糖尿病の合併症の神経障害」「ウイルス感染で血糖値がより高くなり、糖尿病の状態が悪くなって感染症をさらに進行させる」というものです。

 では、血糖コントロールを良くするために何をすべきか? 

 まず、処方された薬は自己判断で服薬量を減らしたり、飲むのをやめたりせず、規定通りに服用すること。コロナの影響で病院に行きづらくなる状況がくることを考慮し主治医と相談の上、可能であれば予備の薬を十分に手元に置いておくのもいいでしょう。

 次に、糖尿病は脂質異常症、高血圧症を併発しやすい。これらの疾患のチェックがまだの人は、今のうちに検査を受け、数値によっては脂質異常症、高血圧の薬物治療も取り入れてください。

 さらに、血糖値の定期的な確認です。皮膚に張ったセンサーに測定値を読み取るリーダーを近づけるだけで簡単に血糖値を測定できる機器も発売されていますし、測定した血糖値や血圧、体重、歩数、食事などの生活記録を一括管理できる無料アプリも登場しています。コロナで活動量が減り、血糖コントロールが思っている以上に悪くなっているかもしれません。定期的に確認し、血糖値の上昇・下降の幅が大きいようなら、特に食事内容を見直さなければなりません。

 そして、重要なのがストレス解消。ストレスは血糖値を上昇させるリスク要因です。十分な睡眠、ストレッチやラジオ体操、ウオーキングといった軽い運動、深呼吸や瞑想、音楽鑑賞などを日常的に取り入れてください。オンライン飲み会は糖尿病患者さんにはあまり勧められませんが、オンラインお茶会などで友人たちとコミュニケーションの時間を持つこともストレス解消につながるでしょう。ただし、延々と深夜までとならないよう、時間を決めて行ってください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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