高血圧の薬を飲んでいるなら…コロナ禍の熱中症に用心する

汗をかくことで、打ち水効果でも冷えている
汗をかくことで、打ち水効果でも冷えている(C)日刊ゲンダイ

 コロナウイルスの感染者数が増減を繰り返す中、猛暑が続ている。そこでより懸念されるのが、熱中症患者の増加だ。長引いた外出自粛で、徐々に暑さに慣れる暑熱順化ができていなかったうえに、マスクをつけることで常に暖かい空気を吸い込むこととなり、身体にかなりの負担がかかる。なかでも不安なのが、高血圧や心臓病、腎臓病などの持病がある人や、利尿薬、心臓の収縮力を抑える作用がある薬を常用している人だ。これらの人は特に熱中症になりやすい「熱中症弱者」だと、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長の三宅康史教授は警鐘を鳴らす。環境省「熱中症予防声かけプロジェクト」の実行委員長も務めている。三宅氏に、熱中症のリスクを高める薬と、その対処法について聞いた。

「まず確認しておきたいのは、人の身体は血液が身体の中の熱を体表に運んで、放熱して冷たくなった血液が身体の中に戻っていく。このようなプロセスで冷えて適温を守るということ。そして汗をかいてそれが乾いて気化熱を奪うという打ち水効果でも冷えているということです。もう一点、忘れてはいけないのが、体調が悪化してきたから休もうとか、エアコンのスイッチを入れようとか、そういう正常な自己管理をする能力も、熱中症予防には必要だということです」

 身体を冷やすためには血液の循環が必要だが、それが可能になるのは、心臓の機能が正しく働いていることが前提になる。心臓が病気になると血液を循環させるポンプの機能が衰えるため、熱中症になりやすいというわけ。心不全や心筋梗塞の既往症のある人は、当然リスクが高まる。

「高血圧の薬を服用している人が熱中症のリスクが高まるのも、これと同じ理由です。血圧を下げる薬というのは、具体的には心臓の収縮力を弱めることでその効果を出している。これは心臓の機能そのものを弱めているということですから、血液の循環を悪くしている。このことは結果的に、熱中症のリスクをも高めているというわけです」

 心疾患や腎疾患の患者に処方されることが多いのが、利尿薬だ。これは尿を出すことで、水分やナトリウムを腎臓から排泄し、それによって身体を流れる血液の量も減らして血圧を下げようとしているものだが、ナトリウムや水を強制的に身体の外に出すことは、熱中症のリスクを高める。熱中症の治療には水を塩分を取ることが第一なのだが、これの逆の行為をしていることになるからだ。

「特に腎疾患や透析をしている人は、水をたくさん取りすぎると尿で出し切れず、身体に水がたまって心不全や脳卒中になったりするので、水分、塩分制限をしていることが普通です。これも熱中症予防とは逆の行為なので、当然熱中症のリスクは高まります」

 また、糖尿病の人は血糖値が上がることにより、糖を尿として出すので、多尿になり、脱水になりやすい。さらに末梢神経の障害が出ることで、暑さを感じにくくなったり、自律神経系に影響が出て、血管拡張もしにくくなるなど、二重三重に熱中症のリスクが高まるという。

「あと注意が必要なのは、精神疾患の薬である向精神薬ですね。この種の薬は自律神経系に影響を与えて汗をかきにくくなる副作用があります。これは体温を下げにくくなることとつながるので、熱中症には高リスクとなりますね」

 とはいえ、病気にかかれば薬を飲まないわけにはいかない。これらの病気や薬と縁のある人が、熱中症にかからないためには、どうすればいいのだろうか。

「基本的な対策としては、涼しいところに身を置いておくのが一番です。長時間外を歩かない。どうしても長時間移動するなら、タクシーを使ったり、途中で喫茶店に入ることをお勧めします。部屋のなかでは、なるべくエアコンをつける。電気代が気になるという人も多いでしょうが、エアコンは最初に部屋を冷やす時に電力を使い、あとは継続運転になるので、つけたり消したりするよりは、ずっとつけておいたほうが電力を食わない、という話もあります」

 そして、やはり基本となるのは水分摂取。エアコンは湿度を下げて喉が乾きやすくなるという意味でも、これは重要になる。病気の薬はきちんと飲む。そのうえで、毎朝体重、体温、血圧、脈拍を測り、自分の体調をきちんと把握することを、三宅医師は勧める。

「自分の体調をコントロールするために、自己管理はきちんとしましょう、ということです。毎日のデータがあれば、主治医のところに行っても相談がしやすい。薬の増減や水分摂取の量についても正しいアドバイスをもらえるでしょう。自分を守るには、まず自分をきちんと知ることです」

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。熱中症対策においても、まさにこの言葉は当てはまるのだ。

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