病気を近づけない体のメンテナンス

肛門<上>名医が伝授するラクラク排便法5つの極意

便秘が痔の最大の原因
便秘が痔の最大の原因

 日本人の3人に1人は“痔主(じぬし)”といわれ、症状を自覚していなくても検診を行えば7割の人に痔が見つかるとされる。それほど身近な病気で、いつ誰が発症してもおかしくない。痔というのは、単一の原因によって起こる一過性の疾患ではなく、高血圧や糖尿病などと同じ、生活習慣病といえるからだ。生活習慣が悪ければ痔を進行させたり、再発を繰り返す。しかし、逆に生活習慣を改善することで予防できるし、再発を防ぐことができるわけだ。

 年間1万2000人の患者を診ている「平田肛門科医院」(東京都港区)の平田雅彦院長が言う。

「痔は肛門周辺の炎症がきっかけとなって起こります。肛門を通過する便は汚い老廃物で、しかもアルカリ性なので肛門の皮膚粘膜にとっては攻撃因子です。通常は炎症を起こさないのは、肛門内は局所免疫が強く働いているからです。ところが、さまざまな要因から全身の免疫力が低下すると、肛門の局所免疫が十分機能しなくなり、肛門に炎症が生じて痔を引き起こすのです」

 ただし、痔を近づけないよう肛門のセルフケアをしようと思ったら、非常に重要な前提がある。たとえば血便があれば、痔だけではなく大腸がんの可能性もある。40歳を過ぎたら、少なくとも2年に1度は大腸がんの内視鏡検査を受けること。その上で肛門の健康状態をチェックしてもらい、医師から生活指導をしてもらうのがいいという。

 痔を予防・改善するために重要なのは、日常生活で肛門に炎症を起こす要因を、できるだけ減らすこと。ポイントになるのは、①便通の異常②肉体疲労③ストレス④冷え⑤飲酒⑥生理⑦座業(デスクワークなど)の7つだ。

 特に①では「便秘」が痔の最大の原因となる。便秘になると硬くなった便が肛門を傷つけ、細菌感染から炎症を引き起こす。それに「いきんで出す」ので、肛門がうっ血して痔核(いぼ痔)になりやすいのだ。排便は本来、毎朝いきむことなく、自然な便意で出すことが理想。そのためには、もともと人間に備わった「起立反射」と「胃・結腸反射」が、朝起床してスムーズに起こることが大切になる。

「起立反射は、横になっていた人間が立ち上がると、その刺激で大腸の蠕動運動(便を送り出す動き)が起こるものです。胃・結腸反射は、空の胃に食べ物が入ると、その刺激が自律神経を介して大腸に伝わり、大腸が蠕動運動を起こすものです。この2つの神経反射を促す方法はないか。そこで私と臨床心理士の先生で考案したのが、リラクセーション法とイメージ法を組み合わせた『ラクラク排便法』です」

■朝起きてから出勤までに快便を実現

 朝起きて出勤まで時間にゆとりがないと、便意がないのに「無理にいきんで出す」排便習慣につながる。ラクラク排便法は、朝、時間にゆとりをもって目覚めるところから始まる。やり方はこうだ。

①目覚めたら布団の中で横になったままでいいので、ゆっくり腹式呼吸をしながら、両方の手足の先をこすり合わせる。

②床に座るか椅子に腰かける。そして深呼吸しながら、両足首を4~5回ほど回して少し休む。

③膝から下をゆっくりさすり、次に太ももの前後をさする。今度は立った状態で、お尻全体を丸くさする。さらにお腹、胸、背中など、体全体が心地良く感じるようにさする。

④体がほぐれたら、深呼吸をしながら冷たい水をコップ2杯飲む。水が口、のど、食道、胃まで流れるのを感じながら飲む。「腸が動いていくところ」をイメージしながらお腹を右回りにさする。

⑤こうして便意が湧き上がってきたら、ゆったりと便座に腰かける。落ち着いて呼吸をして、リラクセーションを心がける。いきむことなく、自然と便が直腸を下りてくるのを感じ取りながら排便する。

「日中の仕事中は、肛門周囲のうっ血に注意することを心がけてください。特にデスクワークの長時間の座りっぱなしは、肛門に大きな負担をかけます。うっ血を防ぐ簡単な方法は『10メートル歩き』です。1時間座ったら、席を立って10メートルほど部屋の中を歩くのです。しかし、仕事に熱中していると難しいので、キッチンタイマーで1時間ごとに鳴るようにセットしておくのがいいでしょう。立ち仕事で自由に体を動かせない人には『肛門体操』をお勧めしています」

 肛門体操は、起床時や就寝前に行うことを習慣にしてもいい。やり方は簡単で、5~10回、ゆっくりと肛門を締めるだけ。肛門を締める際には、お尻の穴でティッシュ箱からティッシュを1枚つかみ、それを持ち上げて引き抜くところをイメージするといいという。

 次回は、肛門にやさしい「食事の極意」を紹介してもらう。

関連記事