心臓・血管の専門医が解説 夏の正しい「塩分」の取り方

取り過ぎは要注意
取り過ぎは要注意(C)日刊ゲンダイ

 猛暑が続いている。「熱中症につながる脱水症状を予防するには、塩分を多めに摂取した方がいい」といわれるが本当だろうか。とくに日頃、塩分を控えるように言われている高血圧などの持病を抱えている人には、悩ましい問題だ。注意すべきポイントを公益財団法人「心臓血管研究所」(東京都港区)の山下武志所長に聞いた。

「夏は汗とともにミネラルが失われ、ミネラルの中で占める割合が大きいのがナトリウム(塩分)です。だからといって塩分の取り過ぎは要注意です。それについて解説しましょう」

 ミネラルは、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミンと並ぶ5大栄養素のひとつ。欠乏しても過剰に取っても病気の原因になる。

 国は「健康増進法」で、ミネラルのうち13種類の元素(ナトリウム、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リン)を適切に摂取するよう定めている。

「ミネラルの中の塩分は、体の水分量や浸透圧を調節したり、神経の伝達、筋肉の収縮を行ったりするなど、体の機能を維持・調整するうえで大切な役割を果たしています」

 そうはいっても、大抵の人は意識して過度に塩分を取る必要はないという。それには体のメカニズムも関係している。

「地球で初めての生命はおよそ40億年前に微生物として生まれ、それが節足動物や両生類などに進化し、やがて海から陸に上がって生活を行うようになり、その後のめざましい進化で人類が生まれたと考えられています。ですから私たちの体は、太古の時代に海から補給していたミネラル(塩分を含む)を今も必要としていて、食事などで体内に取り込むようにできているのです」

 そのうえ、現代人の食生活は塩分が多い傾向がある。塩分の摂取量について、厚生労働省の食事摂取基準(2020年版)では、1日当たりの目標量は男性7・5グラム未満、女性6・5グラム未満と規定されている。また、世界保健機関(WHO)では同5グラム未満(男女)となっている。

 これをクリアするのは難しい。国民健康・栄養調査(2018年)では、日本人の1日当たりの摂取平均値は男性11・0グラム、女性9・3グラムと目標を大きく上回っている。私たちの食生活は、たとえばカップ麺をスープまで飲めば5グラム前後の塩分を取ってしまう日常があるのだ。各学会による塩分摂取量の目安は、高血圧の人は1日6グラム未満(男女)、腎臓病の人は同3~6グラム未満(男女)と厳しく定められている。

「特に高血圧の人は塩分の量を抑えることを意識する必要があります。そうしないとやがて血管を傷めて、心臓や脳の病気を引き起こすことにつながっていきます」

 塩分の量に配慮しつつ、夏場は脱水症状に気をつけたい。

「脱水状態になると、血液を構成する血漿成分(水、電解質、アルブミンなど)と血球成分(赤血球、血小板、白血球など)のバランスが崩れ、血液がドロドロになって、血栓ができやすくなります。血栓が心臓や脳の血管を詰まらせると、急性心筋梗塞や脳梗塞などの大きな病気になります」

 脱水症状のメカニズムには塩分不足が関与している。そのため、脱水防止にはとにかく塩分補給に頼るという考えが生じやすい。しかし、前述した理由から、それは誤解だ。脱水症状の予防には「塩分に頼るのではなく、水分を取り、食事で塩分以外のミネラルを補給することが大切」と山下所長は強調する。

 スポーツ選手、屋外での作業従事者を除き、また急に大量の汗をかいたとき以外は、夏季でも、塩分を多めに取る必要はないそうだ。

 もうひとつ誤解がある。一度に大量の水分を取るのはNGだという。

「健康な人でも、腎臓が尿にして排出できないほどの大量の水分を取ると、今度は血液の中の塩分(ナトリウム)の濃度が低くなりすぎて、重い症状を起こすことがあるのです」

 このため、水分補給はこまめに取るのがいい。

 さらに注意するには、自宅に血圧計を用意して、血圧と同時に脈拍も定期的に測ることだという。

「脱水症状が悪化すると、脈拍も速くなってきます。また、心筋梗塞の初期症状には胸部の痛み、胸部・左肩・左腕の違和感があります。心配な症状が表れたら、躊躇せずに専門医に相談するといいでしょう」

(取材・文=医療ジャーナリスト・中野諭)

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