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新型コロナ時代の病院はお見舞いに出向くのも簡単ではない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 肺がんで入院している上司を見舞おうと、GさんはM病院を訪れました。しかし、病院玄関でコロナウイルス感染症対策のために厳重な管理が行われていたため、受付の様子を見ただけで帰ることにしました。

 病院の玄関には、「患者さんご自身と医療体制を守るため。新しい診療スタイルへ」と題したこんな掲示があったからです。

「院内の滞在時間を極力短くしてください」

「過度に早い来院はお控えください――予約時間通りに来院ください。8時のオープン前ご来院もお控えください。外来への付き添いは最小限に。待合でも間隔を空けてお待ちください」

 さらに、下記のような詳細な指示が記されていました。

 ◇  ◇  ◇ 

1…来院される方は、手洗い、手消毒、および症状の有無にかかわらずマスクのご着用をお願いします。

2…ご自宅を出られる前に体温を測定してください。

3…以下の(1)または(2)に該当する方は、事前に連絡いただくか、入り口の係員に申し出てください。

(1)発熱(37・5度以上)、呼吸器症状(咳・呼吸困難等)がある

(2)2週間以内に以下のいずれかに該当する場合

・新型コロナウイルス感染症患者、またはその疑いがある患者との接触
・海外への渡航歴がある
・「海外への渡航歴があり、発熱かつ呼吸器症状がある人」との接触

4…お付き添いは、必要最小限の人数でお願いします。

5…必要時は体温測定や問診をさせていただくことがありますので、ご協力をお願いいたします。

 現在、当院では、入院患者さんへの面会を原則としてお断りしています。面会は手術や病状の説明等で病院から来院をお願いした場合のみです(その場合、ご家族の方1名に限らせていただきます)。

 洗濯物の受け渡しは、病棟入り口でクラーク又は看護師が対応します。

 病棟に着いたら、必ず看護師かクラークにお声掛けください。病棟に入る前は、手の消毒にご協力をお願いします。

 院内では、必ずマスクを着用してください。マスクの着用がない方は、病棟には入れません。

 入院時、退院時の付き添いは、ご家族1名に限らせていただきます。

 手術前のPCR検査のお知らせ:新型コロナウイルス感染症対策のため、全身麻酔による手術を予定されている患者さんに対して、入院前にPCR検査を行います。

■PCR検査数を増やせば安心できる

 日本感染症学会、日本環境感染学会のホームページには、4月からこう記載されています。

〈PCR検査の原則適応は、『入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例』とする。軽症例には基本的にPCR検査を推奨しない。時間の経過とともに重症化傾向がみられた場合にはPCR法の実施も考慮する〉

 また、日本感染症学会の舘田一博理事長は「流行が蔓延期を迎えた現在、限られた資源は生命の危機に陥る可能性が高い重症者に集中的に投入すべきだ」と言っています。

 毎日、PCR検査の結果が報道されていますが、コロナ波が落ち着いた中国、韓国、ドイツに比べ、日本ではどうしてこんなにも検査数が少ないのかが分かりません。中国の武漢では2週間余りで1000万人の市民全員にPCR検査を実施したといいます。

 PCR検査は限られた資源なのか? 入院ベッド数を心配してのことか? かつて約800カ所あった保健所を半分の約400カ所に減らしてきたためなのか。保健所が足りないのなら、全国には医学部のある大学、研究所、PCR検査ができる施設は多数あります。

 コロナウイルスを持っているのは人間です。無症状の人にも大規模にPCR検査を行えば、個人も、お店も、イベントも安心できますし、経済は回ると思うのです。

 検査日を記載したPCR陰性証明書を発行することで、病院も普段通りとはいかないまでも、多少は診療や面会がやりやすくなるのではないでしょうか。ひょっとしたら、Gさんも病院の玄関で引き返すことなく、お見舞いできたかもしれません。

 ちなみに、今年はお盆で帰省される方が非常に少なかったと聞きます。「Go To キャンペーン」に1兆円以上をかけるよりも、PCR検査に予算を回すべきだと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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