病気を近づけない体のメンテナンス

肛門<下>痔の予防は食物繊維 上手にとるには野菜より海藻

海藻は効率よく食物繊維を取れる
海藻は効率よく食物繊維を取れる

 肛門の病気で最も多い代表疾患といえば「痔核(いぼ痔)」。その最大の原因となるのが「便秘」だ。便が硬くなるので肛門の皮膚粘膜を傷つける。それに「いきんで出す」という排便習慣になるので、肛門がうっ血して痔核になりやすい。便秘を防ぐ生活そのものが肛門のセルフケアになるわけだ。

 年間1万2000人の患者を診ている肛門科の専門医「平田肛門科医院」(東京都港区)の平田雅彦院長が言う。

「便秘の人に『どんなものを、よく食べていますか』と聞くと、『消化のよいもの』という答えが意外と多く返ってきます。しかし、消化のよいものばかり食べていると、便の量が少なくなる上に、大腸の粘膜への刺激も小さくなるので腸の蠕動運動(便を送り出す運動)も起こりにくくなる。結果、便通が悪くなります。便秘をなくすには、やはり食物繊維の摂取が欠かせません」

 食物繊維は、大腸の粘膜を刺激し、便の硬さを増やす材料となる。しかし、すぐ「食物繊維=野菜」と安易にイメージしていると、1日に必要な量の食物繊維を摂取するのは難しい。特に生野菜で取るには無理がある。 日本人の食物繊維の摂取量の目標は、1日当たり成人男性で20グラム以上(70歳以上は19グラム以上)、成人女性で18グラム以上(70歳以上は17グラム以上)。一方、野菜に含まれる食物繊維の総量は、キャベツ40グラム中0・72グラム、トマト100グラム中1グラム、タマネギ100グラム中1・6グラムとごく少量だ。

 ちなみに食品に含まれる食物繊維には、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」がある。不溶性食物繊維は、穀類、野菜、豆類、イモ類に多く含まれ、便の硬さを増やして腸管を刺激し、腸の蠕動運動を活発にして便秘を解消する。ただし、場合によっては便が硬くなることがある。

 水溶性食物繊維は、納豆やワカメ・ノリ・コンブなどの海藻類に含まれ、便を軟らかくして滑りをよくし、スムーズに便を出してくれる。

「食物繊維の上手な取り方として、お勧めするのは『野菜サラダよりも海藻サラダ』という考え方です。海藻は食物繊維の含有量が多いだけでなく、ビタミンやミネラル類が豊富です。それに他の食品では含有量の少ない水溶性食物繊維が取れます。不溶性と水溶性はバランスよく取るのがいいので、どんな食品にどちらの食物繊維が多く含まれるのか、『食品成分表』を参考にするといいでしょう」

 海藻類に含まれる食物繊維の総量は、ワカメ(素干し)20グラム中6・54グラム、焼きノリ4グラム中1・44グラム、ヒジキ10グラム中4・33グラム、寒天2グラム中1・49グラム。野菜よりも断然効率よく食物繊維が取れるのだ。

■加齢とともに発酵食品が重要に

 野菜の場合は、火にかければかさを減らし、一度に摂取できる食物繊維を増やすことができる。野菜の煮物、具だくさんの味噌汁や鍋、ミネストローネなどのスープ類、カレーやシチューなどで取るといい。

 腸内細菌を考えた食事の取り方も、便秘や下痢(切れ痔や痔ろうになりやすい)の予防になる。腸内細菌には、乳酸菌やビフィズス菌などの腸や体にいい「善玉菌」と、ウェルシュ菌や大腸菌などの腸や体に悪い「悪玉菌」、それから善玉菌にも悪玉菌にもなりうる「日和見菌」がいる。

「一般的に年を取るほど善玉菌が減り、悪玉菌が増えてきます。善玉菌を増やす食生活を心がけていると、便秘や下痢の予防・改善効果があることが分かっています。善玉菌を増やすポイントは、①『発酵食品』②『乳糖』③『オリゴ糖』④『食物繊維』を、どれも多く取ることです」

 味噌や醤油、塩こうじ、ぬか漬け、キムチ、納豆、チーズなどの発酵食品には乳酸菌が豊富に含まれている。赤ちゃんの腸内細菌の95%はビフィズス菌で占められている。それは母乳に含まれる乳糖を飲んでいるから。その乳糖を多く含んだ食品の代表が、ヨーグルトなどの乳製品だ。また、ヨーグルトにはビフィズス菌を増やす因子である「ラクトフェリン」なども含まれているという。

 オリゴ糖は、ゴボウやタマネギ、ニンニク、バナナなどに多く含まれている。人の消化酵素では分解されないまま大腸に到達する。そして悪玉菌には利用されず、ビフィズス菌だけのエサになるのだ。食物繊維には、腸内環境を酸性に傾け、悪玉菌を減らす働きがある。また、腸内で分解されると善玉菌のエサになるという。

 肛門は食べた物のカスが出てくるところ。肛門に優しい食生活を心掛けてもらいたい。

関連記事