6つの変異を獲得した 日本独自の新型コロナウイルスの正体

緊急事態宣言解除後、繁華街に人が戻ってきた
緊急事態宣言解除後、繁華街に人が戻ってきた(C)日刊ゲンダイ

 8月5日に国立感染症研究所から、6月下旬以降に日本ではやっている新型コロナウイルスのゲノム(全遺伝情報)解析の成果が報告された。

 その報告によると、日本で現在広がっているのは、3月から4月にかけて日本に多数入り込んできた、いわゆる欧州型のウイルスをベースにした、日本独自の変異型ウイルスだ。

 変異のパターンや配列データなどの詳細に関しては公開されていないが、3月中旬に欧州で採取されたウイルスのゲノム配列と比較すると、変異が6つ獲得されたものらしい。

 この日本独自の変異型ウイルスは危険なウイルスなのであろうか。その答えはおそらくノーである。独自に変異したウイルスというのは、なにか日本人集団に適応、すなわち日本人に感染しやすく変異したのではないかと思われるかもしれない。実験的なデータが出ていないので、その可能性は完全に否定することはできない。

 一方で、ウイルスにとって有利な変異を伴っていなくても、広く拡散することがある。そのことは、遺伝学分野の専門用語で言う「びん首効果」で説明ができるのだ。以下、「びん首効果」に基づいて、日本で広がっている新型コロナウイルスの変異の移り変わりについて考察する。

 3月、4月の時点で、特に欧州を中心に感染が広がった新型コロナウイルスが日本にも数多く入り込み、日本国内でも感染が広がった。その時点では、さまざまな地域から新型コロナウイルスが流入し、日本には多様な変異を持った新型コロナウイルスが存在したと考えられる。

 しかし、4月の下旬から5月に入り、日本国内では感染者数がかなり減っていった。新型コロナウイルスは人体と一部の動物でのみ増殖ができるので、感染者数が減るということはすなわち新型コロナウイルスの数そのものも減少していたと考えられる。この時点で、新型コロナウイルスの多様性は大きく減少し、いくつかの変異を持った新型コロナウイルスがわずかに存在していたのだろう。

■変異速度は変わらず

 そして5月中旬の緊急事態宣言解除のあと、徐々に以前の生活に戻すように活動が再開すると、それに伴って感染者も増加した。それは海外からの流入は限られていたので、日本国内に存在していた多様性の小さい新型コロナウイルスの集団が急激に広がったと考えられる。多様性が小さかったため、共通する変異を持っていたものが多かったのだろう。

 上記のように考えると、この6つの変異というのは、ウイルスが生存するための有利な機能を獲得したというよりも、偶然の影響が大きいと考えられる。実際に、新型コロナウイルスは半月に1つの変異を蓄積していくことが知られているため、3月の中旬と6月に採取された新型コロナウイルスのゲノム配列を比較すると、6つの変異というのは、いままで知られている変異の速度と同じである。したがって、現在見られている患者数の上昇は、新型コロナウイルスの変異が要因ではなく、単純に感染する機会が増えたことに起因するのであろう。

 ちなみに、今後予定される入国制限緩和で一定数の外国由来の変異ウイルスが日本国内に流入するとしても、必ずしもそれが主流になって感染者数が激増するとは限らないと考える。

(東海大学医学部分子生命科学講師・中川草)

関連記事