「見え方」は認知症に関連 度の合わないメガネに要注意

度の合わないメガネにも注意(写真はイメージ)/
度の合わないメガネにも注意(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 先月、漫画家でタレントの蛭子能収さん(72)が「軽度の認知症」と報じられ、ショックを受けた中高年も多かったのではないか? 認知症の最大の原因は加齢であり、誰にでも起こりうる身近な病気だと改めて認識させてくれたからだ。しかし、その発症リスクを高めるひとつが、「見え方」であることを知っている人は少ないかもしれない。順天堂大学医学部付属順天堂医院眼科の平塚義宗先任准教授に話を聞いた。

■見え方の良い人は発症率が63%

「目の見え方と認知機能には強い関連があることがわかっていて、認知機能が正常な625人を8・5年間追跡した米国の調査では、見え方が良い人は悪い人に比べて認知症発症率で63%、認知障害発生率で40%も低いことが報告されています」

 なぜ、目の見え方が悪いと、認知症になりやすいのか? それは目の見え方が日常生活における身体活動や社会参加に大きく関わっているからだ。

「介護やリハビリの世界で一般的に使われている言葉にADLとIADLがあります。前者は日常生活動作と訳され、起床から移動、食事、着替え、トイレ、入浴など日常生活で発生する動作を指します。後者は日常的な動作のなかでさらに複雑で、頭を使う、買い物や服薬管理、電話などを指します。目の見え方が悪い人は、IADLはもちろん、ADLが悪くなる。足元が見えづらいので階段を下りる速度が目に見えて遅くなり、歩く速度も遅くなる。転倒リスクも高くなります。自宅などに引きこもりがちになり、日常生活の活動量が低下し、認知機能が低下するという悪循環に陥ると考えられるからです」

 4000人を対象とした米国のコホート(ある時点で研究対象とする病気にかかっていない人を大勢集め、将来にわたって長期間観察し追跡を続けることで、ある要因の有無が、病気の発生または予防に関係しているかを調査する)研究によると、認知機能が低く視力障害のある人は、認知機能が低いだけの人と比べて、IADL障害を起こすリスクが2倍以上高かった。

「高齢者の目は若い頃と違ってカメラのレンズにあたる水晶体が濁り、光量を絞る虹彩が衰え、視野が狭くなり、像を映すスクリーンである網膜にしわができたり穴があいたり、神経細胞が減り、明暗も曖昧になります。それを補うために、治すべき目の不具合は治し、水晶体の濁りを取る白内障手術をタイミングよくしたり、しっかり度の合ったメガネをかけるなどして視力改善すればいいのですが、多くの中高年の方は、そのような意識がありません。その結果、自分でも気づかないうちに視力障害を持ったまま生活しており、それが、認知症の発症に関わっている可能性があります」

■5年後には65歳以上の20%が認知症

 実際、世界の失明を除いた中等度もしくは重度の視覚障害の原因の52%は視力を矯正していない、あるいは矯正が不十分で、十分な視力で物を見ていない状態という。

「日本を含めた先進国では、途上国と違い、お金がないから、メガネやコンタクトレンズが買えない・買い替えられないことが理由ではありません。単に合ったメガネをかければきちんと見えるのに、惰性で本来合っていないメガネやコンタクトレンズを装着しつづけている人が多いと思われます」

 逆に言えば、目の不具合を改善したり、タイミングよく白内障手術をしたり、メガネで正しく矯正すれば、認知症の発症リスクを抑えることができるかもしれない。

「白内障手術や度の合ったメガネをかけることで『見え方』を改善させることはとても重要なことです。『見え方』が良いと、うつ症状が減ったり、歩く速度が速くなるなど動作が機敏になります。結果として、老人会や趣味の会などに積極的に参加するようになり、これが更に、認知症リスクを下げることにつながります」

 65歳以上の高齢人口における認知症患者の割合は2012年に15%だったが、2025年には20%に達するとの推計もある。情報の8割は視覚で得ているともいわれる。年を取り、収入が減ったからと言い訳せずに、人生を豊かで健康に過ごすために、3年に1度は眼鏡をかけ替えるくらいの気持ちでいようではないか。

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