Dr.中川 がんサバイバーの知恵

堀ちえみさんが歌声披露 発声と食事は術後リハビリで守る

堀ちえみ
堀ちえみ(C)日刊ゲンダイ

 がんサバイバーのひとりとして、タレント・堀ちえみさん(53)の復活はうれしい限りです。昨年2月にステージ4の舌がんで舌を切除し、再建する手術を受けていますが、手術後初めて歌声を披露しました。

 再出発に選んだ「リ・ボ・ン」という曲は、英語のreborn=生まれ変わるという意味が込められているそうです。術後はうまく話すことができず、つらい思いもされたといいます。

 舌がんの治療は、手術が基本。切除範囲が小さければ、局所麻酔で日帰りや数日の入院で済みます。食べ物を飲み下したり、音を構成したりする機能障害はほとんど残りません。

 大きくなると、がんがある側の舌を半分切除。さらにがんが舌の真ん中まで進展してくると、半分以上を切除(舌亜全摘手術)。堀さんも6割切除で、太ももの組織を移植したそうです。

 切除範囲が半分までなら、飲み下しや構音などの機能障害は日常生活に支障をきたさない程度。それ以上だと、機能障害が避けられません。手術実績に加え、リハビリに熱心な病院を選ぶことが大切です。

■ら行が難しくなる

 舌亜全摘手術後、1週間は鼻から管を通して流動食で栄養を取ります。嚥下訓練はそれからで、口から十分な栄養を取れるようになるまで1~2カ月かかることも珍しくありません。

 咀嚼には、歯のほかに舌の働きが不可欠。舌が食べ物を支えたり、奥歯の方へ送ったりすることが重要なのです。総入れ歯の方で、豆腐など軟らかいものだと、入れ歯をはずしてむしゃむしゃすることがあるのは、咀嚼において、舌の重要性を裏づけています。

 そのため舌亜全摘手術後は、歯があっても十分な咀嚼ができにくい。食材を細かく刻んだり、圧力鍋で軟らかく煮込んだり。軟らかいものしか食べられなくなることもあります。

 堀さんは「『リ・ボ・ン』のタイトルだけでも言いづらい」と語っていました。「ら・り・る・れ・ろ」は舌の先端を上あごにぶつけて発声するため、舌の半分以上がないと、術前のような動きに戻すのは難しい。口の中の別の部分に舌を当て、“らしい音”を新しくつくったり、上あごの装具を使ったトレーニングをしたりします。

 実はハミングは会話より比較的簡単で、「川の流れのように」のサビの導入の「あーあー」などは、声帯だけで出せます。「夜明けのスキャット」の出だしは「ル」で始まりますが、ギリギリ大丈夫でしょう。ハミングは、舌の動きに関係がありませんから。

 そうはいっても術後の生活は大変です。ステージ3の一部までは、機能障害を残さずに済む放射線の組織内照射が可能。食事や会話を重視される方は、検討の価値は十分です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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