がんと向き合い生きていく

勉強を欠かさなかった先輩医師は"霊水"を信じたのだろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 以前のことになりますが、某大学医学部のS教授の友人が膵臓がんの末期状態で入院されました。S教授は私に会いに来られびっくりするような相談をされたのです。

「このまま抗がん剤が効かなくなって、命が短いのは分かっている。ヒ素を飲ませてくれないか?先生さえよければ持参する。責任は私が取る。私は効くと思っている。どうだ?」

 S教授は動物実験でそのような研究をされているようでした。

 私は、「動物では効くかもしれませんが、医薬品になっていないものを、個人的に臨床で試してみるのは無理です」と、きっぱり断りました。S教授がどのようなつもりで「責任を取る」と話されたかは分かりません。 その後、ヒ素は「三酸化ヒ素」として医薬品が開発され、急性前骨髄球性白血病に効果を認め、いまは市販されています。

 変わって、私の先輩であるN先生のお話です。この先輩は化学が得意で、がん細胞の化学的観点からの研究をされていました。普段はニコニコされていますが、怒ると怖い方でした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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