がんと向き合い生きていく

勉強を欠かさなかった先輩医師は"霊水"を信じたのだろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ある日、たまたま廊下で、お互いの襟をつかみ合うほどのケンカを目撃しました。N先生と呼吸器内科部長でした。怒鳴り合う声を聞いていると、研究室に置いてある超遠心機が壊れたことが原因のようでした。N先生の許可なしに呼吸器内科部長が使ったから壊れたというのです。

「おまえのせいで、がんの制圧が遅れる!」

 その大きな声、その意気込み、その言葉に驚きました。

 N先生に嫌われると大変だ……みんな怖がっていましたが、ある時、某大学医学部の教授に栄転されていきました。われわれはホッとしました。それが十数年たって、また同じ病院で働くことになるとは夢にも思いませんでした。

 N先生が現役の頃、時々、私は部屋に呼ばれ、用件が済むと学問の話ばかりではなく世間話もたくさんされました。「○○さんは材木屋の息子でね」とか、「あの人のおじいさんは男爵で……」などと、楽しそうに話されていたことを思い出します。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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