かつて、医療の最大の目的は「人命を救う」ことでした。もちろんそれは今でも変わりありませんが、近年はそれだけではなく「医療安全」が重要視されています。
医療安全というと、医療事故が起こった場合の病院側の対応策というイメージで捉えられがちですが、そうではありません。医療安全の取り組みは、医療事故を未然に防いで「患者さんを守る」ためのものです。
「患者は守られるべきである」という考えのもと、世界で初めて組織的に動き始めたのは英国だといわれています。1990年、ブリストル王立病院の麻酔科医が、同病院の2人の小児心臓外科医の手術後の死亡が多いことを内部告発しました。この告発は病院長に黙殺されましたが、マスコミ報道などによって社会問題となり、95年までの間に心臓手術を受けた53人の小児のうち29人が死亡という異常な死亡率だったことが判明したのです。この事件をきっかけに、英国の国営医療サービス「NHS」によって病院の管理が強化され、より良い医師を育てるための指導や患者の保護が徹底されるようになりました。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」