過去のつらい出来事を書くだけで血圧低下「感情日記」の効果

完成度を気にせず自分のために書く
完成度を気にせず自分のために書く

 高血圧や慢性痛の改善、ウイルスへの免疫力増強など多くの健康効果が証明されているのが「感情日記」だ。精神科医で「日記を書くと血圧が下がる」の著者でもある最上悠氏も、治療に取り入れているという。

「最初は半信半疑でした」

 最上氏が、過去の出来事や、その時感じたつらい思いなどについて書く「感情筆記」の効果を耳にしたのは、2010年代前半、英ロンドン大学での研究員時代だ。心理医学の世界的権威、ジョン・ワインマン教授から「外科手術を受ける患者が術前に1回15分の感情筆記を3日間行っただけで、術後の傷口の回復スピードが変わる」という研究成果を聞き、非常に驚いた。

 調べてみると、諸外国で膨大な数の筆記研究が行われており、信頼性が高いランダム化比較試験が用いられているものも多数あった。自身の臨床で試したのは日本に帰国後。大動脈解離で一命をとりとめた50代男性に1日15分、ライティングをしてもらった。

「男性の血圧は収縮期(上)170超という危険な範囲で、専門医が薬を調整しても下がりませんでした。ところが薬は変わってないのに感情筆記を始めて3週間後には100台前半まで正常化。筆記の効果は本物と確信し、気軽に筆記が可能な日記の体裁で行う感情日記として患者さんに勧めるようになりました」

■「自分自身のために書く」

 なぜ、感情日記が血圧低下などに作用するのか? それは、心と体が密接につながっているからだ。最上氏によれば、感情日記によって心の奥底の感情に触れられる。

「すると押し殺していた本音の感情が解放され、苦悩が緩和し、そのあおりで崩れていた自律神経系・内分泌系・免疫系のバランスが回復します。結果、病気や体調不良が改善するのです」

 押し殺されていた感情は専門用語で「一次感情」と呼ばれる。喜怒哀楽などヒト以外の動物にもある原始的感情だ。これらはありのままに感じきると、自然に消え、問題にならない。しかし苦痛が強すぎると耐え難いからと目を背けるため、もとの出来事とは関係のない極端な考えや激怒、恨みといった激しい感情(「二次感情」)が生じる。

「一次感情と向き合わないためにわざわざ生じた人工的な二次反応ですから、有害ゴミと一緒で自然には消えません。ちょっとしたことで激怒したり自己嫌悪に陥ったり絶望感を抱いたりし、心身の自然治癒力を歪め、痛みや疲れ、めまいといった二次反応としての病的症状へと至らせます」

 前述の通り、感情日記は一次感情を解放し、病的身体反応も含む二次反応への連鎖を断ち切る。特に感情表現が苦手・抑える・自分の感情に気付きにくいタイプに効果がある。複数の研究結果を統合して解析するメタ分析からは、特に男性に効果が期待できることも報告されている。

 感情日記にはルールはないが、より効果が期待できる書き方がある。

「自分自身のために書く。誤字や脱字、文法や文章の完成度を気にしない。ノートでも、パソコンやスマホの画面に入力しても構いません」

 感情や洞察を入れ、その時の感情、現在の感情を深く感じながら書く。誰かを責める内容でも、罵倒する内容でもいい。感情をぶつけることが大事だ。書きながら号泣する人も少なくない。

「連日でも、とびとびでも構いません。欧米での研究では3~4日間、1回20分程度が多い。書いて害になるものではないし、お金も特にかからない。まずは始めてみてはいかがでしょう」

 ストレスの影響が大きい高血圧は、中でも効果が顕著に表れる可能性がある。

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