みんなの眼科教室 教えて清澤先生

急激に両眼の視力が永続的に低下する「レーベル病」とは?

写真はイメージ
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【Q】 若者に突然、両眼の永続的な視力障害を起こすというレーベル病について教えてください。(22歳男性)

【A】レーベル病、正確には「Leber遺伝性視神経症」(LHON)という疾患があります。

 1871年、その特徴的パターンを説明したLeber博士にちなんで名付けられました。遺伝性の視神経症のなかでは最多の疾患で、有病率は3~5万人に1人。18~35歳の若い男性に見られ、女性での発症は少数です。ほとんどの場合、片眼の視力低下と中心視野欠損から発症し、数週間からは数ヶ月後に反対側の眼にも発症します。視力が底を打つまで数週間悪化し続けます。稀ですが、しばらくすると回復傾向を示す例もあります。

 レーベル病はミトコンドリアDNAの突然変異によって引き起こされます。遺伝物質DNAのほとんどは細胞核に局在していますが、そのごく一部がミトコンドリアにあります。このミトコンドリアDNAは母親からしか受け継がれません。この母系遺伝であることが、ほとんどの患者さんが男性だと言うことの説明になります。

 レーベル病を発症するDNA変異は3タイプあり、90%がそのいずれかの変異によるものです。この遺伝子変異が細胞内のエネルギー産生を妨害します。しかし、この変異を持っていてもかなりの割合の人は病気を発症しません。ストレスなど追加の環境要因によって発症すると考えられています。

 レーベル病は診断が難しい病気です。遺伝性疾患ですが、必ずしも家族に同症状の人が居るとは限りません。診断のためには神経眼科検査とミトコンドリアDNA分析が必要です。眼底所見は最初に微小な血管の異常が出現し、神経線維層腫脹が見られるようになり、やがて視神経萎縮に進行します。現在の一般的な転帰としては、恒久的かつ重度の視力障害を残しますが、治療法に関して最先端の研究も進行しています。

 この疾患を患われた方々の団体に「レーベル病患者の会」があります。2019年におこなわれた第28回視覚障害リハビリテーション研究大会では、「レーベル病患者の就学状況についての実態報告」について発表されたそうです。10代で発症した患者の家族8名に対しておこなったアンケート結果です。

 現在、障害者の就学・試験・受験に関して決まった法的制度やルールはなく、補装具の持ち込みや試験の時間延長といった対応も学校によりまちまちで、各学校と個別の折衝・交渉が必要な状況でした。社会制度として視覚障害者への相談窓口はありますが就学に関する窓口はなく、家族が対応に苦慮した、という報告でした。

 本疾患は若年発症で両眼の急激で永続的な視力低下をきたす病態のため、それまで普通に生活し学業に励んでいた若者が、突然、それまで通りの学生生活をおくれなくなる、という実態があります。「教育現場の視覚障害者に対するサポートの明確な制度・ルールの創設が早期に必要と考えられる」、と結論されていました。

清澤源弘

清澤源弘

1953年、長野県生まれ。東北大学医学部卒、同大学院修了。86年、仏原子力庁、翌年に米ペンシルベニア大学並びにウイリス眼科病院に留学。92年、東京医科歯科大眼科助教授。2005-2021年清澤眼科院長。2021年11月自由が丘清澤眼科を新たに開院。日本眼科学会専門医、日本眼科医会学術部委員、日本神経眼科学会名誉会員など。

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