がんと向き合い生きていく

新型コロナの影響でがん検診を受ける人が大幅に減っている

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 毎日、まだまだ暑い日が続いています。

 新型コロナウイルス流行の影響で、多くの方と同じように私の親戚・知人、都会で働いている人たちは、実家に帰省することもなく9月に入りました。

 顔を合わせる機会がなくなり、電話で近況を報告し合っています。

「暑いね。どうしてる?」

「元気か?」

「今年の夏は田舎に誰も来なくて……トマトとキュウリでも送ろうか?」

 暑い中でも植物は強く、狭い庭で、肥料をあげたわけでもないのに、にょきにょき伸びた菊芋は私の背丈を超え、その周りでコスモスが咲き始めました。

 そして、近くの田んぼは緑色から黄色に変わってきました。

 テレビではコロナの感染者数が毎日報告され、同じ医師が毎日のようにコメントを述べていますが、一向に終息がみられません。みんな心の中ではイライラしながら過ごしています。

 病院でも、どこでも、誰でも、日本中でコロナの話題が主役です。

 月1回、病院で外来治療を受けている親戚は、病院の掲示を見て、診察を待っている時間は駐車場の車の中にいて、自分が呼ばれるまで待機しているとのことでした。密閉、密集、密接の「3密」を避けることに徹しているそうです。

 乳がんを患っている親戚は、入院している病院でコロナの集団感染があり、実家の親が心配して私に電話をかけてきました。「どうしよう……」と相談を受けましたが、「今、入院中なら、担当医の指示に従うこと」と答えるしかありません。入院中の患者の不安も大変だろうと思いますが、その病院で毎日働いている職員もまた大変だと思います。

 ある友人は、電話でこんな話をしていました。

「郷土史の勉強会をやっているのだけど、講師の方から『コロナの抗体検査で陰性だったから大丈夫』と言われた。『受講生はみんな抗体検査を受けて、また始めよう』と誘われたが、自分はがんで手術と放射線治療が終わったばかりだから断ろうと思っている」

 私はこう答えました。「感染者がまた毎日増えているようなので、いまは3密を避けることが大切。不要不急の勉強会はもう少し待ったらどうですか? 抗体検査で陰性ということは、これからうつるかもしれないということでもあります」

 がん治療が中心の病院でも、一般の病院でも、行政から「コロナベッドの確保を」と言われ、とても大変です。もともと感染症病床がないところでは心配なのも当然です。

 医療職員の不足といわれるのは、消毒や防護用ガウン着用といった感染対策の手間などで2倍も3倍も人手が要るからです。

 感染者が出てしまうとアッという間に院内感染が起こって、病院封鎖を検討せざるを得ない事態になってしまいます。島など地方の病院でも大変で、父島に行く方はPCR検査をすることになったと聞きます。

■検診を受けた方がいいのはたしかだが…

 こんな悩みも聞きました。

「毎年、夫婦で人間ドックを受けていますが、今年はどうしようかと迷っています。病院の受付では『予定をどうされますか?』と聞かれるだけです……」

 たしかに、これも不要不急と言えばそうかもしれません。

 検査を受けた方がいいことはたしかですが、コロナ流行下では「ぜひ受けなさい」とも言い難いのです。

 1年間に100万人ががんに罹患する時代です。早く見つければ、多くは治る可能性が高いと言えます。そして、医療費も安くて済むのはたしかです。しかし今年は、これまでのがん検診受診者が極端に少ないようです。

 新型コロナウイルスの影響で、自治体が実施するがん検診を受けた人が大幅に減っていて、日本対がん協会では「受診が遅れると、がんが進行して見つかる可能性があるので検診を受けてほしい」と呼びかけています(https://www.jcancer.JP/coronavirus/)。

 日本乳癌検診学会では6月に、乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症への対応の手引を公開しています(http://www.jabcs.JP/pages/covid.html)。

 がん検診については、診療所、病院に通院中の患者さんであれば、担当医と相談されるのもひとつの方法です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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