進化する糖尿病治療法

主治医から眼科受診を指示されなければ受けなくてもいい?

年に1度は眼科受診を
年に1度は眼科受診を

 糖尿病の合併症に、糖尿病性網膜症があります。糖尿病性網膜症は、高血糖が続くことで網膜の血管が傷つき、視力の低下や障害が表れる病気で、日本では中途失明の原因の第2位になっています(日本眼科学会雑誌2014年)。

 2015年、製薬会社によって糖尿病性網膜症の予防に関する患者調査の結果が発表されました。過去に2型糖尿病と診断され、現在その治療のために通院している患者1000人に対し、インターネット調査が行われました。

 それによると、全体の23・6%が、糖尿病と診断されてから一度も眼科を受診していませんでした。また、眼科を一度も受診していない人と、糖尿病診断から眼科初回受診まで1年以上という人の合計は60・9%でした。一度も受診していない人の理由で半数近くを占めたのが「糖尿病治療医から眼科を受診するように言われなかった」というものです。

 眼科を受診したことがある人も、「1カ月に1回」の頻度の人はわずか3・7%。「1年に1回」が21・4%で、「現在は受診していない」人は22・3%でした。

 糖尿病性網膜症は一般的に、初期では自覚症状がなく、中期になると視界がかすむなどの症状が表れ、さらに進行すると視力低下や小さな虫が飛んでいるように見える飛蚊症といった症状が起こったり、急に視野の一部が欠ける視野欠損が起こったりします。

 視野欠損は網膜剥離が考えられ、失明に至る可能性も高くなります。

 ただ、糖尿病性網膜症による血管の異常が、視力の関係する部分のどれだけの範囲に及んでいるかで症状が異なります。だから自覚症状がある・なしにかかわらず、定期的に眼科を受診しなければ、糖尿病性網膜症の十分な備えとは言えません。

 糖尿病性網膜症は、糖尿病を発症してからの年数が長いほどリスクが高く、発症10年では5~6割の患者さんに見られるともいわれます。「自分は糖尿病と言われたばかりだから、まだ大丈夫」と思う人がいるかもしれません。

 しかし、診断された段階でかなり糖尿病が進行している人、場合によっては目の異常を感じて眼科に行ったら、そこで初めて糖尿病と指摘された人もいます。これが先に述べた「症状がある・なしにかかわらず、定期的に眼科を受診しなければならない」につながるのです。

 主治医が何も言わなかったから、眼科に行かなくてもいいと思っていた……。主治医を信頼している人ほど、その傾向があるかもしれません。ただ、糖尿病は血糖値、血圧、悪玉コレステロール、中性脂肪などチェックしなければならない検査項目が多く、食生活、運動などについても注意が必要です。

 限られた診療時間内では、どうしても目にまでチェックが行き届かない場合も時として見受けられます。患者さん自身が身を守る方法として、合併症についてしっかり理解し、少なくとも年に1度は眼科を受診すべきです。

 糖尿病性網膜症は、初期の段階では血糖値・HbA1cをしっかり下げ、高血圧、脂質異常症の治療、そして禁煙などによって進行を食い止められます。しかし、中期以降になると、網膜光凝固術や硝子体手術などが行われるものの、それらは視力低下をできるだけ防ぐことが目的で、損傷を受けた網膜を回復させるものではありません。

 視力低下や失明がどれだけ生活の質を低下させるかは、言うまでもないでしょう。糖尿病の患者さんで、一度も、あるいはしばらく眼科を受診していないという人は、すぐにでも受診をしてほしいと思います。そして、その習慣を身につけてください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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